第7話 パンケーキを召し上がれ!

 リビングでは吸血鬼の隣で、兄貴が何事かをまくし立てていた。すごく慌てているけど、とても嬉しそうだ。私の前ではそういう顔をしないのに。


「はい、お待たせしました」


 私はパンケーキの皿を兄貴とジュンさんの前に置いた。


「わあかわいい! チョコバナナだ!」


 私の苦肉の策はクレープのように「チョコバナナ」にしてしまうことだった。うちにあったバナナを切って、生クリームがなかったので冷凍庫にあったバニラアイスを盛り付けて、ついでにコーンフレークも添えてその上からチョコレートシロップを振りかけたのだ。


「ふふ、女子力だな!」

「あれ、ケンくんが焼いたんじゃないの?」

「生地は俺だが、チョコバナナは朱美が作った!」

「わあ、どうもありがとう!」


 ……そう言われると、ちょっと嬉しくなっちゃう。


「だって、いきなりパンケーキ作るって言うから、その……」

「わかる、心配しちゃうよね!」


 あ、何か少し共感してもらった。この人も、伊達にこいつの彼女やってないんだな。


「あの、冷めないうちにどうぞ!」


 それから私も一緒に、チョコバナナパンケーキを食べた。


 甘くて、温かいのと冷たいのが一緒に来て、それでいて、何だか不思議な味だった。絶対おいしいに決まってるのに、なんでこんなトッピングしたのかなってちょっと情けなくなる。子供っぽいな、私。


 兄貴とジュンさんの話を聞いているのは楽しかったけど、何だかどこかでこのままではいけない、という気がしてしまう。


 私は皿を下げるついでに台所に戻ってきて、これからどうするかを考える。すぐに皿を洗って、そして……。


***


「朱美、どこか行くのか?」


 リビングでジュンさんと楽しく喋ってる兄貴が話しかけてくる。


「塾の自習室。来週模試だって言ったじゃない」


 台所で用事を済ませた私は、やっぱり避難することにした。こんな家に一秒だっていられるか。私は勉強しなくちゃいけないんだ!


「そうか、気をつけて行けよ」


 何よ、冷たいじゃない。そりゃ、妹より彼女のほうが大事だろうけどさ……。


「後さ、冷蔵庫にお好み焼きあるから後で食べてね」

「え?」

「和風パンケーキ、作っておいたから」


 さっき「お好み焼きもパンケーキ」と言っていたのが忘れられなくて、スーパーでついお好み焼きの材料も買ってきてしまった。洗い物のついでだから作っておいただけのことだ。帰ってきて夕飯作らなくてもいいし。


「朱美ちゃんは料理が上手なのね」


 ジュンさんにフォローされてしまった。


「ええまあ、好きなだけですけど」

「いいじゃない、料理が出来るなんてカッコいいと思うよ」


 ……そうかなあ?


「じゃあ、行ってくるね」


 何だか恥ずかしくなってしまって、私は急いで家を出た。


 自習室に行くまで、街中至る所でハロウィンをやっている。


「あー、もう……今日は捨て日だ……」


 自習室に来ても、イマイチ集中できない。今日はもう何をしてもジュンさんのハロウィンコーデばかり思い出してしまう。来週模試なのに。ハロウィンのバカ野郎!


 結局自習室での成果も特になく、暗くなってとぼとぼ家に帰っているとメッセージが届いた。


『ジュンさんのお土産食べようぜ』


 添付された写真は、色とりどりのハロウィンモチーフのアイスクリームだった。2個減っているのがちょっと生々しいけど。


『わかった』


 面倒なのでスタンプを送信する。今日一日働いて、報酬はアイスかあ……ハロウィンのアイス。悪くないか。多分ジュンさんは帰ったのだろう。今頃ひとりであいつは後始末をしているはずだ。


「まったく、世話がやけるねえ……」


 外は寒いしアイスは冷たいのに、何だかあったかい。いろいろあったけど、褒められるのは悪い気がしない。お化けになってイタズラするのも、たまには悪くないのかもしれないな。


「さて、帰りますか」


 空を見上げると流れ星が見えた。ふふ、きっと明日はいいことがあるかもね。


〈了〉

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兄貴がパンケーキを焼くのを妹は応援します! 秋犬 @Anoni

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