第6話 ハロウィンジュンさんがやってきた!
ジュンさんから家の近くまで来たというメッセージを受けて、兄貴は外に飛び出して行った。それからすぐ、ジュンさんがうちにやってきた。
「お邪魔します、朱美ちゃん久しぶり!」
……わーお。
予想はしていたけど、ジュンさんはしっかりがっつり隙のないゴスロリで来た。
黒と赤を基調としたドレスに、黒いバラがあしらわれているチョーカー。ツインテールにしている髪には大きな赤いバラの髪飾り。黒いレースのショールに黒い薄手のタイツ。靴はヒールが高めの黒いショートブーツで、黒いカバンには十字架とコウモリのモチーフが揺れている。トドメに赤いカラコンまで入っている。
「うわあ、ハロウィンっぽいですね!」
「でしょう? 今日は吸血鬼モチーフです!」
ジュンさんは原宿のロリータ服専門店でバイトしているところで兄貴と知り合った。服飾の専門学校からアパレル企業に就職して、今でも趣味のゴスロリを続けている。
「吸血鬼だって、すごく似合ってるよね! すごく!」
色ボケ兄貴のコメントは置いておいて、やっぱりジュンさんのゴスロリには気合いが入っている。ひとつのことに本気で取り組んでいる人のやってることって、やっぱり少し違う気がする。
「ささ、上がって上がって!」
兄貴はジュンさんから受け取った手土産を早速冷蔵庫にしまいに行く。そしてハロウィンの吸血鬼がうちの平凡なリビングにやってくる。うん、場違い。
……待てよ? 兄貴とジュンさんが結婚したら、いつもジュンさんがうちにいてもおかしくないってことになるんだよな?
うーん……なんか釈然としない。
「ええと、コーヒー? 紅茶? どっちもあるよ!」
「それじゃあ紅茶にしようかな」
「任せろ!」
台所にすっ飛んで行こうとする兄貴を私は制する。
「お茶なら私がやるから……あんたはジュンさんと話してて」
「よし、わかった!」
何だかいつもと様子が違う。ものすごく変なテンションだ。恋する乙女、いやこの場合なんだろう。恋する男子?
「ジュンさん、俺ね、ジュンさんのためにパンケーキ焼いて待ってたんだ!」
「そうなんだ、すごいじゃないケンくん」
ケンくん。
……さっさとお茶の準備してこよ。
私はひとり台所に戻ってきた。パンケーキは出来上がっていて、後は盛り付けるだけになっている。
「よし、やってやるか」
私は出来上がった分厚いパンケーキを8つに切って、電子レンジで温める。少し冷めてしまっているので、ほかほかにしなければいけない。
「2切れくらいでいいかな」
元々2~3人前の分量なので、分厚いパンケーキを一人でひとつというわけにはいかない。紅茶の用意をしながら、私は温まったケーキにあるトッピングを施す。
「絶対おいしいに決まってる」
仕上げにチョコレートシロップをたっぷりかける。急ごしらえのトッピングだから少しチャチだけど、手作り感があっていいかもしれない。兄貴の分とジュンさんの分、そして私の分と……残りはパパかママにあげよう。
そして私はリビングに紅茶を運ぶ。それから、いよいよお待ちかねのパンケーキだ。
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