第5話 トッピングはどうするの?

 パンケーキを作ることになった兄貴のシャカシャカが一段落した。牛乳と卵がボウルの中でふんわりと膨らんでいる。


「あのさあ……これ、キツくない?」

「うん、キツいよ? だからパティシエって力仕事だし、男の世界なんだってさ」


 そりゃ10分も泡立て器を動かし続けたら疲れる。でも本職の人たちはこれの何倍も多い材料で多い時間混ぜ続けなければいけない。筋肉も必要だろう。


「そうか……パティシエはマッチョだったのか」

「中華料理とかもそうじゃない?」


 あの中華鍋とか、見た目は軽々と振ってるけど絶対重いよね。料理人はすごいな。


「それで、これに粉を入れるんだよな?」

「そう。粉を混ぜたらあんまりシャカシャカしないでね。粉が混ざればいいから」


 兄貴は取り出したホットケーキミックスの袋を開けて、ふんわりしたボウルの中に入れる。勢いよくボウルに落とされた粉がふわりと白く舞う。


「うわ、ちょっと飛び出した!」

「そのくらい大丈夫だから」


 兄貴は慎重に泡立て器で粉とふんわりを混ぜていく。粉はふんわりに飲み込まれて、どろどろに変化していく。


「もういいかな」

「まだまだ、もう少し」


 完全に粉が見えなくなったところで、パンケーキの種がようやく完成した。


「やったぞ! 後は焼くだけだな!」

「そうそう、せっかくだから分厚いパンケーキにする?」


 私は小さいフライパンを出すと、コンロで熱し始めた。


「分厚いフライパン?」

「そう、この前動画で見たの。厚いパンケーキを焼く簡単な方法」


 熱くなったフライパンを濡れ布巾の上に置いて温度を均等にして、それからパンケーキの種をフライパンに一気に流し入れた。フライパンはテフロン加工のものだから、油はいらない。


「え、これ全部一気に焼くの?」

「うん、あとは弱火で蓋をするといい感じになるんだって」


 私はコンロの火を小さく絞って、蓋をしたフライパンを火にかける。これで10分から15分、ひっくり返して5分だったかな? いい感じにふわふわ分厚いパンケーキになるって話だ。


「へえ、お玉ですくってやるんじゃないんだ」

「それもいいけどね、映えなら断然分厚いほうがいいでしょ」


 あとお玉を使わないから洗い物が減るし、ね。

 キッチンタイマーをセットして、その間に洗い物と盛り付けの準備をしよう。


「じゃあ後はシロップと……あああああ!」


 私は兄貴が雑に買ってきたシロップを見て驚いた。


「これチョコレートシロップじゃない!」

「本当だ! ホットケーキシロップじゃない!」


 チョコレートシロップで食べるパンケーキ……絶対バターに合わない。


「どうするの!? バターとチョコレートじゃなんか変だよ!」

「そう言われても……何とかできないか?」

「何とかって言ったてさあ……」


 困った私は冷蔵庫を開けて覗き込んだ。古いメイプルシロップはあったけれど、賞味期限が数年前になっている。


「チョコレートシロップでおいしく食べるパンケーキ、ねえ……」


 どうしよう、もう一度スーパーまで買いに行かないといけない?

 でももうすぐジュンさん来ちゃうし、どうしよう?


「チョコレートシロップ……そうだ!」


 私はいいことを思いついた。早速うちにある食材を確認して、これなら行けると確信する。


「じゃあ私がトッピング作るから、あんたは台所の片付けとお茶の用意!」

「OK!」


 パンケーキが焼けるまであと10分。

 ジュンさんが来るまで、何とかなるかな。

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