第4話 誰かボウルをおさえてて!
パンケーキを作る兄貴のために日曜の朝から買い物に付き合わされた私は、少々不機嫌になっていた。時刻は10時を過ぎていて、本来ならば私はそろそろ起きて朝ご飯を食べようかという時間のはずだった。
「……で、さっさと作り始めるよ」
「おう!」
いつの間にか兄貴は高校の家庭科の実習で作ったと思われるエプロンをかけて、頭には気合いを入れてバンダナまで巻いている。
「見た目だけは凝るんだよね……」
「世の中見た目は大事だろ!」
私もエプロンをつけると、いよいよ兄貴のパンケーキ作りが始まった。
「さて、どうやって作るんだ?」
ずっこけそうになるのを堪えて、私は指示をする。
「まず卵と牛乳を用意する!」
「粉は使わないのか?」
「あとで使うの、今は卵ひとつと牛乳!」
言われて、兄貴は卵をひとつと牛乳パックを冷蔵庫から取り出す。
「それでどうするんだ?」
「粉の袋の裏側に書いてある通りにするの。ほら牛乳測って」
私がやったほうが早いので、私は計量カップのメモリ半分まで牛乳を入れる。
「卵くらい割ってよね」
「バカにするなよ」
流石の兄貴も卵くらい割れたようだ。ボウルに割った卵がつるんと入る。
「じゃあこの白いの取れる?」
「バカにするなよって……あれ?」
兄貴は菜箸でカラザを取るのに四苦八苦している。ふふ、苦しめ苦しめ。
「なんだこれ、フォークとか使っていい?」
「その発想はなかったかな……」
面倒くさいので私がカラザを取って、そこに計量した牛乳を入れる。
「さあ、泡立てて」
「任せろ!」
泡立て器を渡すと、異様に張り切った兄貴がカシャカシャ泡立て器を回し始める。
「あのね。こういうのはくるくる回転させてもダメなのよ」
「そうなの?」
私は兄貴からボウルを受け取ると、泡立て器をシャカシャカ動かした。
「そもそも、泡立てって何のためにするか知ってる?」
「混ぜるためだろう?」
「そうなんだけど、泡立て器って……ああ、そうか」
一応バカではない兄貴なので、流石に話の飲み込みは早い。
「つまり泡を立てるように混ぜればいいんだな?」
「そういうこと」
兄貴は熱心にシャカシャカ始めた。コツはボウルの中でくるくる泡立て器を回すのではなく、その場で上下に振るように動かすことだ。ボウルの中の卵と牛乳が次第に膨らんでいく。
「で、これをいつまでやるんだ?」
「大体空気がふんわり入るまでだから……10分くらい?」
「マジか!?」
シャカシャカしながら兄貴が青ざめる。この空気を入れるためのシャカシャカ、ここがパンケーキ作りで一番大事なところだから妥協はできない。
「ジュンさんのためでしょう?」
「うう……わかったよ」
「ほれファイト、ファイト」
私は兄貴がシャカシャカしている間、使う食器をどれにするか考えていた。
「パン祭りの皿だと味気ないよね……」
「俺は構わないと思うけど」
そういうわけにもいかないので、戸棚の奥に閉まってある柄つきの皿を引っ張り出してくる。薄い青色が上品でかわいいお皿だ。
「前に引き出物かなんかでもらった皿だよ、これ」
「おお、おしゃれだな!」
私がお皿を洗っている間、兄貴は頑張ってシャカシャカしていた。時々「ジュンさん」と呟いている気がしたけど、気のせいだと思うことにした。
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