第3話 買い物くらい一人で行きなよ!

 うちのボケ兄貴のパンケーキ大作戦に付き合わされた私は、恥ずかしながら大学生の兄貴と一緒に近所のスーパーにやってきた。


 開店同時に店内に入ったので、客はほとんどいない。


「さて、何を買うんだ?」


 カートに買い物カゴを入れて、兄貴がワクワクしている。幸せな奴だ。


「とりあえず、ホットケーキミックス」

「俺が作るのはパンケーキだぞ」

「さっきホットケーキもパンケーキも一緒だって調べたじゃない!」

「冗談に決まってるだろ、真面目に突っ込むなよ」


 ああ、腹立つ!


「製菓コーナーかな……あとトッピングもしたいよね」

「ああ、喫茶店とかの果物だな!」


 よくわからないことを言っているが、多分彼もトッピングと言いたいのだろう。


「それで、何乗せたいの?」

「何がいいと思う?」


 まーたこいつは質問に質問で返すんだから……。


「あのねえ、自分のパンケーキなんだから自分で少しは考えなさいよ」

「一応考えはあるぞ」


 ほう?


「イチゴとブルーベリーのパンケーキなんておしゃれでいいだろう?」

「うん、おしゃれだね……」


 十月に何を言ってるんだこいつは。

 スーパーにイチゴなんてあるわけないだろ!


「だろう? しかし見てみろ、ここにはイチゴが売ってないじゃないか」

「見なくてもわかるよ」


 探せばあるところにはあるんだろうけど、とっても高いんだろうな。


「そういうわけで代案をだな」

「知らないわよ、何で私があんたのパンケーキを考えなくちゃいけないの?」

「女子力だろ、女子力!」

「パンケーキに女子力は関係ない!」


 ……要は面倒くさいんだろうな、こいつ。


「わかったよ、適当にトッピング考えればいいんでしょう? ……もう」


 ああ……受験生の頭に負担かけんじゃないよこのバカ兄貴。


「じゃあ、まずはパンケーキの材料から買うからね」


 とりあえず真っ直ぐ製菓コーナーへ行き、ホットケーキミックスを買うことにした。


「いろんな種類があるんだなー……これ電子レンジで作れるって!」


 そう言うと、ニコニコして兄貴は「レンジで簡単ホットケーキ!」というキットを指さす。


「あんたは電子レンジで作った小学生が作るみたいなパンケーキを彼女に食わせるのか? 大体電子レンジで作ったら、フライパンケーキじゃないでしょう?」

「……悪いか!」


 今のはボケのつもりだったらしい。紛らわしい奴だ。


「で、種類がたくさんあるけどどれにするんだ?」

「基本的にどれでも一緒でしょう、これとか少し高級感あるパッケージだけど多分見た目だけだと思うけどな」


 そもそも「彼女に手作りパンケーキ食べさせる」なんて絵本の世界みたいなこと言い出す時点で、高級感とか一切ないけどな。


「じゃあ、これにする」


 兄貴が手にしたのは、某有名絵本とコラボしたパッケージのホットケーキミックスだった。


「いいんじゃない、無難で」


 こうしてホットケーキミックスはカゴに入れられた。


「あとシロップ!」


 兄貴が雑にシロップを掴んでカゴに入れる。


「ホットケーキのシロップなら、うちにあるんじゃない?」

「いつ使ったかわからないシロップなんてジュンさんに食べさせられるか!」


 尤もなご意見だが、私にも言い分がある。


「でも今更新しく買って、誰が使いきるのよ」


 子供の頃ならいざ知らず、我が家はほぼ成人4人の所帯である。好き好んでホットケーキのシロップを消費する家ではない。


「……俺が朝パンとかに付けて食べるよ」


 食パンにメイプルシロップをつけるのも悪くはなさそうだが、この際責任持って消費してもらおう。


「はい、じゃあ次行くよ」


 私はトッピングなんかバターとシロップだけでいいのでは、と考えながら次のコーナーへ向かった。それから細々といろいろ買い物をして、私たちは急いで家に帰った。

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