究極のモーニングルーティンはこなせない

ちびまるフォイ

翌朝までの修行⇔翌朝からの修行

「導師! あなたのモーニングルーティンを教えて下さい!!」


「私が誰がを知ってここまで来たんですかな」


「はい。先生のモーニングルーティンを体得できれば

 人間の限界を超えた能力を得られると……」


「そうですか……。しかしあなたに教えることはできません」


「なぜですか!? 導師!」


「私はすっかり老いてしまったのです。

 もうモーニングルーティンを終えることはできなくなっている」


「そんな……」


「わかったなら帰りなさい。朝が終わらないうちに」


「イヤです! 絶対にモーニングルーティンを会得してみせます!」


「その心意気に免じてお教えしましょう。

 私のモーニングルーティンを……」


こうしてモーニングルーティンの修行がはじまった。

そのルーティンたるや筆舌に尽くしがたいほどの辛さをほこる。


1セット終える頃にはすでに夕方になっていた。


「ど、導師……! もう立ち上がれません……!」


「これをモーニング。すなわち午前中に終えるのです」


「これを……寝起きでやるんですか……!?」


「いかにも」


考えただけでもゾッとする。

まだエンジンの入りきっていない起きがけに、

このモーニングルーティンを行えば命を落とすかもしれない。


しかしそれで諦められればここまで来なかった。


「やってみせます。これを何度もこなし続ければ

 きっと午前中に終えてみせます!」


伝授されたモーニングルーティンを毎日こなす日々。

けれどどれだけ日が経っても、ルーティンが体に染み込んでも


午前中にすべて終えることは不可能だった。


「くそ!! また午後になってしまった!!

 これじゃモーニングルーティンの効果が機能しない!!」


「諦めてはいけません」


「導師……教えて下さい。導師はどうやって

 この物理的に午前中に終えられないこの工程を

 午前中にきっかり終わらせられたんですか」


「私の頃は……。それこそまだ街灯も少なく、

 地球温暖化も進んでいなかったので午前が長かったのですよ」


「そうですか……」


「いまや街が起きるのも早い。陽がさし始めるのも早い。

 この私でさえモーニングにルーティンをこなすことが

 今では不可能になってしまっている」


「ようは……午前を長くすればいいんです……よね?」


「何をする気ですか?」


「モーニングルーティンを変えるんじゃなく、

 これをこなせるだけの環境を作ってみせます!」


モーニングルーティンを体に染み込ませることはできた。

次の段階はこれを終えられるまでのタイムリミットの延長。


「うおおお! くらえ!! 地軸パーーンチ!!」


「な、なにを!?」


思い切り地面にパンチをした。

その突き抜ける衝撃で地球の地軸の角度が変化した。


「導師。今この地球の地軸の傾き加減を変えました」


「そ、そんなことしてなんの意味が……?」


「地球の傾きを変えれば、日照時間も延長される。

 つまり朝が伸びるんですよ」


「な、なるほど……!

 しかしそれだけでモーニングルーティンを

 こなすだけの時間的余裕ができますかな」


「いえ、不十分です」


「でしょう。ですからモーニングルーティンをさらに研鑽し……」


「なので、もっと早く動きます!!!」


「!?」


地球の地軸を傾けた上、さらに光の速度に近いスピードで動き始めた。

光速でモーニングルーティンをこなしていく。


「なっ! なんて速さだ!!」


「導師! 時間の流れは一定ではありません!

 光の速度に近いほど時間はゆっくり流れるのです!」


「日照時間を延長して午前を長くしたうえ、

 さらに光速で動いて時間をゆっくり進ませるたのか!」


「はい導師!! これが私のモーニングルーティンです!!」


「こんなこと! 考えもしなかった!!」


「うおおお!! モーニング! ルーティーーンッ!!!」


恐ろしい速さで動いてモーニングルーティンをこなしていく。

心が鎮められ、穏やかな気持になり、ゆとりがある丁寧な生活が浸透していく!!!


「導師!! やりました!!

 モーニングルーティンを午前中に終えることができましたよ!!」


「すばらしい! ついに体現できたんですね!!」


「はい!! 体中に力が満ちています!

 今はなんにでもできるような気分です!」


体中にふつふつとみなぎる万能感。

頭がクリアで世界中のあらゆる万物流転をも把握できてしまいそう。


これが導師の究極モーニングルーティンの効果なのだろう。


「君なら必ず会得してくれると信じていました」


「導師……!」


「しかし、これは始まりにすぎない」


「え……? モーニングルーティンが始まり……!?」


「そう。これはほんの準備運動でしかない。

 本当のルーティンはここからはじまるんですよ」


「導師……! この先があるんですね……!

 そのために、モーニングルーティンで調子を整えたんですね!」


「そうです。これをこなすために

 モーニングルーティンがあったのです」


「導師! 教えて下さい! モーニングルーティンのその先を!!」



導師は決意を決めて、真のルーティンの伝授を決めた。



「では始めましょう。良い朝を迎えるためのナイトルーティーンを……!!」

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