第4話 ようこそ、勇者様! その2

 魔物たちの魔法で轟音と共に崩れ落ちる聖堂。

 魔法使いたちの張った障壁は、全体に亀裂を走らせながらも魔法や瓦礫からボクらを守りきった。

 不安だからこっそり1枚だけボクも展開していたけど、必要無かったかな。


 にしても土煙で見えないけど、随分と囲まれてるね。

 感知できるだけでも千体は下らない数の魔物に包囲されてる。

 いくつか大きなものもあるし、とてもでは無いけどここにいる騎士たちで勝てるとは思えない。


 思えないんだけど、うーん…。

 できれば知らない争いに関わりたくはないんだけど。

 でも前の世界でそう言って争いに頭突っ込んだ結果が勇者コレなんだよなぁ…。

 けどあの魔物たち、だったんだよね…

 そう悩んでいると、ボクの右手を誰かの手が掴んだ。


「うん?」


「お願いします!勇者様!どうか…どうか我らをお助け下さい!このままでは皆、殺されてしまいます!ここで騎士団と魔術師団を失うわけにはいかないのです!」 


「…そう。ねぇ、王女様。何をさせるためにボクを喚んだの?誰かから何かを奪うため?それとも、君達の大切な何かを守るため?」


「それは」


「…!伏せて!」


 次の瞬間、一本の黒槍が亀裂の入っていた障壁と土埃を吹き飛ばし、僕の張った結界に半ばまで突き刺さった。

 危ない危ない。張ってて良かったなぁ。


「おいおい!勇者はもう召喚されているのか!さっきの随分でかい魔力は召喚の魔法じゃなかったのだな!」


「だから言ったでしょう。こいつらを待って一網打尽にするより、ここだけ壊したほうがいいって。さっさと壊してれば召喚されなかったじゃないですか。」


 槍が飛んできた方向の空にいたのは一本角の茶髪の男と、ややくすんだ青髪の女。あれ多分結構上位の魔族だね。魔力もその辺に飛んでる魔物よりかなり多いし、さっきの槍もなかなかの魔法だった。


「そっ…そんな!この反応は…!魔将級が2体!?」


 なんか横で王女様が悲鳴みたいな声を上げているね。

 あの二人は余程まずい相手らしい。


「魔将?そんなにヤバイの?」


「当然です!魔将というのは、過去に大都市や国を滅ぼした魔物につけられる呼び名で、魔将一体で最低でも国の騎士団が総動員されるほどの存在なのです!特に男の方は『ウラ』と呼ばれ、過去に3つの国を滅ぼしていますっ!」


「へぇ。」


 王女様の持つネックレスは、過去に襲撃を行った魔将の魔力を検知できるそうだ。


「ん?なんだ?我らは随分と有名なみたいだなぁ!」


「まぁ、あなたは有名でしょうね。あれだけ暴れれば。ですが、戦場にほとんど出てない私まで識別されるのは作戦の妨げになりかねません。厄介ですね。あの魔導具は回収して調べます。」


「ふむ?バレても全て殺せば問題なさそうだが…?まあ何はともかく今回の目的は異世界の勇者だ。悪いが、貴様がいると我らが主にとって都合が悪いのだ。死んでもらうぞ。それからここにいる羽虫共もついでにな。」


 羽虫ね…空にいる二人と、魔族を畜生と呼び虐げていた貴族たちが重なりかけるけど、どこかが違う。


「…君たちは、なぜ人類と争っているんだ?」


「なぜ?おかしなことを問うのだな、貴様は。貴様の家先に羽虫が群れていたら駆除をするだろう。我らもその邪魔な羽虫を殺しているだけだ。そこに貴様という少し大きな羽虫が外から飛んできたからな。優先的に駆除するのは当然だろう?本当は飛んでくる前にどうにかできれば良かったが。まあ侵入経路ごと壊せばいいだろう。」


「私達の主の目的のためには、あなた達のような存在に飛び回られるわけにはいかないので。完全にとばっちりですが、大人しく滅ぼされて下さい、勇者。」


 そうか。

 少なくとも今相対している彼らには、人族に対する悪意は感じられない。

 人間という存在に価値を感じていないのか。

 

 ただ、彼らの主の目的のために障害となる人間を滅ぼす、それ以外に攻撃している理由はない。

 きっと邪魔になるなら、人間だろうが他の動物だろうが関係ないのだろう。

 そうなると、


「なるほど、ボクやこの世界の人々が何かしたところで、君らのすることは変わらないんだね。」


「ふむ。物分りがよくて助かるな、そう言う事だ。人間共が抵抗しようが、降伏しようが、勇者を喚び込もうが、神に助けを求めようが我らは貴様らも国も殺すぞ。潔く諦める事だ。では、抵抗せずに死んでくれ、勇者よ。せめてもの情けだ、楽に済ませてやる。」


 そう言うとまた魔物たちが魔力を込めだす。

 ブレスを吐こうとしている者、魔法を放とうとしている者、武器に魔力を込め出す者。

 

 個々が放つ魔力が先程よりだいぶ増えたね。

 ここにいる魔法使い達にはもうこの攻撃を凌ぐ程の魔力はないだろう。

 ちらりと王女様を見ると、力強い、けれども泣きそうな顔でこちらを見ていた。


 その顔があの日初めて助けた、あの魔族の子に重なって。

 気がつけばボクは、魔力を練っていた。


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