第1章 召喚獣にも色々ある訳で
第2話 ムカデは少女と星を見る①
とある優秀な召喚術師の女の場合
「ぎゃぁぁ!蟲!虫!でっかいムカデェ!キモイキモイキモイ!早く帰ってお願い!もうやだ有り得ない!」
朝からクソ安い魔力で呼ばれてやったのにこれかよ。後その恰好何だよ、痴女か?
あり得ないのはこっちのセリフだボケ。さっさと帰還術式を唱えやがれ。
とある名門貴族のご子息初召喚の場合
「何という事だ!こんな禍々しい召喚獣を呼んでしまうとは!これは何かの間違いだ!私の息子は代々受け継がれてきたイフリートを呼べるはずだ!」
「うわぁぁぁぁん!怖いよパパー!早くこの気持ち悪いのどっかにやってよー!」
召喚獣違いで俺が呼ばれた時点でイフリートとの召喚契約切れてる事に気付けよ。
因みにアイツは今リヴァイアサンと旅行を満喫してるぞ。今呼んだらマジでブチギレで大火傷するから気を付けな。後クソガキ、張っ倒すぞ。
とある邪教の神官
「おおっ!敬遠なる数多の生贄により見事に儀式は成功した!何という恐ろしいお姿か!これこそ我らが求めた真なる魔人様!」
「ぎゃぁぁぁぁ!何故ですか魔人様ぁ!お許しをー」
生贄要らねぇ!カビくせぇ!魔人と一緒にするんじゃねぇ!
生贄召喚は違反だって何度言えば理解するんだこのカス共!胸に穴空いた血塗れの美女なんざ誰が欲しがるんだよシネ!
とある英雄級の召喚術師
「あれ?何か予定と違う召喚獣呼んじゃった?おかしいなぁ...ああ、ここの術式間違ってるんじゃない?ごめんねムカデさん。ついでに毒を頂戴?」
おい、間違ってるのそこだけじゃねーぞ。城の中でクラーケンの野郎を呼び出すつもりか?
え?ああ、毒?持ってけドロボー。取り扱いは注意しろよ。
とある未熟な召喚士
「...」
魔力全部吸われて死んでるじゃねーか!何で俺なんか呼びやがった!身の程知らずが!
事務局!トラブル発生だ!遠隔で帰還させてくれー!術者死んどるがな!
「今度はどんな奴が俺を呼んだんだろうな」
召喚ゲートに飛び込んだ俺は、事務局から送られてきた召喚先の座標に向かって移動していた。
程なくして、指定された座標と思われる場所に小さな出口の光が見えた。
パリパリと青白い火花を発しながら、空間の裂け目が出来ている。
しかしその裂け目だが、なんだか滅茶苦茶小さいぞ。
亜空間だと狂いやすい遠近法をどう修正しても、俺の身体が通れるとは思えん。
どうするんだよコレ。
「このまま帰るのはいかんだろうしなぁ。仕方ねぇ押し通る!」
俺はその小さな裂け目に暇を持て余している無数の脚を引っ掛けて、無理矢理にこじ開けようと全力で割り開く。
「うぉぉぉりゃぁぁぁぁ!」
裂け目の周りを盛大な火花が散り、何とか頭が通る程の隙間は出来た。
俺は何とかその空間を広げながら、頭を差し込んでゲートを通る。
呼ばれた場所は無数の篝火が焚かれた、薄暗い空間。
石柱がいくつも並んでいる所を見ると、だだっ広い地下空間だった。
「せっま!やべぇ身体が締まる!脚が絡まる!」
そんな慌てる俺を息も絶え絶えの少女が見上げていた。
その少女は顔色が不自然な程に白く、見るからに不健康。
来ている服もボロボロ、その身体もろくに食事を取っていないのが丸わかりだった。
「おっと...あー、俺を呼んだのはお前か?」
「は、はい。私がこの召喚陣でお呼び...しました」
いや、こう見えても俺はこの少女の豆粒みてぇな魔力で呼べる召喚獣じゃねぇ。
普通に考えて、魔力全部支払ってもまだ足りねぇぞ。
あ、やべ。裂け目が閉まる、俺の身体も締まる。
俺は再び脚に力を込めて、裂け目を広げた。
「お前...顔色悪すぎだぞ、どうした?」
まさかコイツ生命エネルギーを担保に俺を召喚しやがったのか?
どう考えてもこんな子が出来る召喚技術じゃない上に、正直それでも全然足りん。一体どうなってる。
「まぁ呼ばれたからには仮契約でも何でもいいから話進めるぞ...ってかおい、何でお前が契約者じゃねーんだよ」
そしてオマケとばかりに、召喚契約の術者にコイツが反応しないときたもんだ。
「わ、わかりません...先生がここで召喚術を使いなさいって...私には才能があるからって言われて...これが成功したらお金いっぱい貰えて、奴隷から解放して貰えるの」
どうなってやがるんだ?先生?
いやこの子が言ってる事も怪しさが全速力でぶっ飛んでる気もするが...それよりもこの召喚陣、なんかおかしいぞ...んん?
「この召喚陣...術者と契約者が...なんだこれ、細工されてるのか」
「あ、あの...ムカデさんは召喚に応じてきて下さったのですか?」
「そりゃそうだろ。散歩の途中にたまたま通りがかった訳じゃねーよ」
「やった...召喚成功...したんだ...これで自由に...」
俺を召喚出来た事に安心したのか、その場で意識を失う少女。
その肌は青白さを通り越して、土気色になり始めている。
このままだと死ぬぞこいつ。
でも契約出来ねぇから助ける事も出来ん。あーもう、何なんだよ。
俺は倒れた少女を横目に、床に描かれている召喚陣をもう一度注意深く紐解いていった。
ここがこうなって、こうだろ?そんでもって...あーもうややこしいな。何でこんな組み立て方になってるんだよ!
この術式を書いたヤツ、相当根性がひん曲がってやがるなオイ!
「なんなんだコレ...ん?もしかしてこれか?書き間違いか...いや...これは...そういうことか、クソふざけた真似しやがって...」
俺は頭部にイマジナリー青筋を立てて、怒りを覚えながらも召喚術式の内容に不審な点を発見する。
すると暗闇の奥の方から、老若男女入り混じった召喚術師らしき集団が足音を響かせながらこちらに向かってくるのが見えた。
「おおっ!何と強力な召喚獣!ついに成功しましたよ!どうですか皆様方、これが私の開発した新しい召喚術式です!如何でしょう!」
眼鏡をかけた壮年の男が、満面の笑顔で両手を広げて周囲の賞賛を浴びている。
あー、コイツか。コイツだな。コイツだよな。
なぁお前だよな、先生?
ちったぁ気の利いた遺言を残してるんだろうな、このクソ野郎が。
嫌われ召喚獣スコロペンドラ 黒堅ケトル @kurokata3710
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