Book 4. 勝者に祝杯を。
「畜生ッ! 諦めてたまるかッ!」
俺は宙に浮かぶ『
「魔術師の素質は魔力の
それが助言のつもりなのか、メフィストは
クソっ、どうすればいい!?
不安と焦りが
対して上村は、所持する『
何か手掛かりはないかと、俺は眼前に広がる
視界の端で割れた酒瓶に目がとまったが、これを振るったところで大した役にはたつまい――と、牽制するように伸ばされた上村の左手が、瓶から飛散したであろう液体によって濡れているのに気がついた。
その
視界のARディスプレイ上に〝weak〟の文字が追加表示された。
これはもしや。
――試してみるか。
俺は
魔術は呪文毎に詠唱時間が決まっており、瞬間的に効果を発揮するものもあれば、儀式魔術のように長時間を必要とするものもある。メイガスフォンによって半ば自動化されているとはいえ、俺の狙いにはまだ幾ばくかの時を必要とした。
「させねえよ、雑魚がッ!」
俺の動きを見て取った上村は、遠慮なく強力な魔術をぶつけてきた。
再び俺を害する魔力が周囲で高まり、呪文に対する抵抗を試みるが、今度はあっけなく力負けしてしまう。
「ぐうッ……ぎゃあああああッ!」
スマホを握る右腕に激痛が走り、俺は思わず絶叫した。左手で右腕を支えて、なんとか取り落とさずにすんだ。しかし――。
腕が、腕がァ!
俺の右腕は肘から先が黒く乾いて
よく気を失わずにいたと自分でも感心する――その理由は、儀式魔術が完成するまでの残り時間に集中していたからだ。
激痛に耐えながら、そのカウントがゼロとなった瞬間。
俺は魔術の成立を宣言した。
「くッ……我、虚空の神に供物を捧げん。酒杯よ、満ちよ」
「はッ、なぁに気取ってんだ。何も起こらないじゃないか……うん!?」
最初は何も変化がないように思われた。
しかし数秒後、眉間に皺を寄せた上村は、どんどん顔が赤くなり、その後蒼白になって――頭からひっくり返った。
「ごぶぐぶッ……げほッ……お前、いったい何を……」
口から泡を吹き、黄金色の液体を
「〈
――とはいえ、上村によって呪文抵抗される可能性もあったから、この試みは一か八かの賭けではあったのだ。神に祈りと供物を捧げる事によって救われたのだと、そういえなくもあるまい。
「お前がアルコールアレルギーなのは気がついていたが、ここまで効くとはな……オイ、何とかいえよ先輩だろ」
上村は白目を剝き、ぐうッと呻って気絶したようだった。
「「カミムラユウタの戦闘不能を確認。よってサギタトモヒロを勝者とします」」
再び二人のメフィストがゲームの終演を宣言した。
「初勝利おめでとうございます。その右腕は速やかに〈
「ああ、思い出したら痛くなってきた……」
「対象のメイガスフォンの上に、本機を重ねてください。こちらの魔道書ライブラリに移行できます」
床に転がった漆黒のスマホにこちらの本体を重ねると、やはりピロリン♪と軽薄な音が鳴り響いた。どうやら新しい魔道書を入手したらしい。
ああ、疲れた。
死ぬかと思った。
「さて、残る魔道書は八冊。私、この遊戯の魅力と意義について十分にお伝えできたでしょうか」
「ああ、
――俺の心の奥底に、薄暗い炎が灯ってしまったようである。
(魔術師の遊戯・了)
魔術師の遊戯 猫丸 @nekowillow
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