第23話 風の姉弟と生霊⑨

取り敢えず、前進はしなくちゃならない。城までは警戒しながら向かうシンプルなプランで行くしかないだろう。

と思ったところで我に返った。キャスリンはどちらもスペシャリストではなかっただろうか。でもあたしは獲物武器扱った事ないからなぁ。魔法も操作覚えなきゃだし。急な実践は無理かなぁ。だけど魔法を使わない獲物武器だけ扱う兵士あたりならたぶん、いける……。いやいや、あたしは戦わずに済ませたい派だから。と百面相しながら歩き出す。

「───止まれ」

見知らぬ生死の声に我に返った。

「旅人か? 見たところ他国の貴族だな? 護衛も連れずに何用だ? 」

他国相手なら身分差関係なくそんな態度なんだなあ。

「レイユーシアから来ました。オスカー・レイユーシアだ。お忍び旅で来たのだが、観光させてはもらえまいか。妹と妹の婚約者との弟を連れている」

名前だけは知っていたのだろう。一気に青ざめる。流石に王族相手ではそうならざる得ないわけか。友好でもなく、ある意味犬猿の仲の国。しかし、表立って敵対しているわけではない。

「失礼致しました! 少々お待ち下さい! 」

門番は1人だった。……だが、城らしき場所が黒いモヤで覆われていたことを考えるとすんなり行きそうな予感はしない。暫くすると、たくさんの金具が擦れる音。これダメなんじゃないかな。

「レイユーシア国王太子殿下御一行。陛下が謁見をお許しになられました。申し訳ありませんが、武器を預からせて頂き、拘束させて頂くことをお許し願いたい」

後ろにいる鎧の兵士を止めると、代表者なのだろうか、ひとり違う軍服を着た青年が前に出てとんでもないことを行った。

「応じて頂けなければやむを得ないので、首だけ謁見して頂く事になります」

これ、どっちもダメなやつだ。歓迎されないだろうなとは思ったけどさ。3人ともあたしを見た。判断委ねるな! と思いつつも、親指を下に左から右にジェスチャーした。伝わるかな。

「……仕方ない。そういうことなら応じる理由はないな」

「甘く見られたものですね。たかだか十数名で言いなりにしようなどと」

合わせてみた。それが合図と言わんばかりに殿下とフリックくんは動き出した。相手も一歩遅れて動き出す。

「引くことは許されない! 」

一斉にこちらに向かってくる。それなりの手練てだれなのか、2人は中々前進出来ないでいた。でも、魔法を使うものはないようだ。サポートに回ると言ったものの、リーファルくんをかばいながら戦況を見守らねばならない。

「ああっ」

風魔法で牽制していたリーファルくんの叫びに振り返る。いつの間にか背後に来ていた敵兵に捕まっていた。

「一緒に来てもらおうか、姫さん」

剣を突きつけられる。手も足も出ないと判断されたようだ。

───ガッ。

「ギャァァァ!! 」

助走なしで一回転回し蹴りを食らわしてやった。顔面を蹴り付け、持っていた剣をたたき落としたのだ。

「このままじゃ拉致があかない。リーファルくん、あたしに掴まってて! しがみついて2人のとこに着いたらどっちかにしがみついてて。何とかする」

「は、はい」

リーファルくんを素早く回収し、走り出す。2人はまだ苦戦している。怪我こそないが前に進めていない。

(強行突破しかない! )

あたしは右足を踏みしめた。

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2025年1月9日 09:00

視えちゃう底辺VTuberは異形専門の交渉人《ネゴシエーター》公務員 姫宮未調 @idumi34

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