第22話 お歯黒さま⑨
「……『お歯黒さま』、どうなるんすか? 」
緊急事態として処理される最悪のパターンは少なくない。すべての異形を保護出来るわけがないからだ。人間に脅威だと判断されればすぐさま倒さねばならない。異形愛好者には辛い選択になる。
「今はまだその段階じゃない。2人とも気絶してるだけだ」
「では、2人を気絶させた理由を聞かせてください」
島袋はドカッと座ると
「沢渡から話すが、コイツは能力者だ。何の能力があるかまでは調べないと分からないがな。『お歯黒さま』はちょいと普通の異形じゃない感じだ。多分だが、半分人間のようだぜ。俺の解読した演算式からすりゃあな。そこまでしか分からねえ」
サングラスを外して唸っている。更なる情報を得ようとしているのだろう。
「気になることがあれば報告してくれ。そこから何か開けるかもしれない」
「あ、そう言えば……。次官が現れる寸前に聞こえたんですが」
お歯黒さまが『ヨリコ』と呼ばれていて2人は夫婦であること、二人をトリコメと言っていたこと、4人が村人になるのも時間の問題だと言っていたことを話した。
「『お歯黒さま』になる前はヨリコと言う人間の女性だったってことかもしれないな」
「に、人間が異形になることあるんすか? 聞いたことないっす」
「事例はないがとんでも時代だ。有り得ないとはいえねぇだろ? 」
異形は妖怪と定義付け出来ないものも多く、人間とは異なる形(式)の存在の総称だ。いつから居たのかも定かではない。畏怖の心の具現化だの、長く生きたからだの様々な理由がある。
「ええ、決まった法則があるとは言いきれません。あ、もう1つ……沢渡が離れた際、周りの村人が異様だったのを覚えています」
「どう異様だったんだ? 」
「近くにいるときは皆さん、活気があったんです。離れた途端、まるで電源が切れたように表情が消えたようでした」
「……沢渡に操られている? 」
真人が重い口を開いた。
「どちらかが、洗脳のような力がありそうだな。現段階ではどちらと言えないが」
「沢渡以外は『お歯黒さま』をよく知らないみたいだったすから」
「まぁ、洗脳するでも1週間では出来ないらしいからな」
「かなり掛かるんだな。ま、アイツらは無事ではある。問題はどこにいるか、だ」
「なら───洗脳は『お歯黒さま』で、その『お歯黒さま』が彼の言いなりになる理由……『夫婦』ですね」
「ま、要するに沢渡が『お歯黒さま』を使って観光客を村人にしたって線が濃厚って事ですね」
「本土から皆誘導されて集められたって可能性があるな。ハリボテの島に何故集めたか分からねぇが。沢渡はおまえらを呼び寄せた運営であることは確かだからな」
「あの、なら今更なんすけど……、依頼は無効な気がするっす」
「それはそうなんだが、関わっちまったもんは仕方ない。乗り掛かった船だ。どんな形にしろ、異形はこの通りいるからな。仕事しない訳にはいかんだろ」
そう、被害者を本土に帰さねばならないのだ。
「それに───咲華楽のこともあるからな」
キャスリンはビクッと肩をふるわせた。とっくに中身が違うことは知られていることは察していた。どう説明したものか。説明する担当は丈琉しかいないのだが。
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