エクストリーム・カスタマーセンター

脳幹 まこと

For the Customer


 お電話ありがとうございます。あなたと一緒にいつまでも、NDE株式会社カスタマーセンターのオダマキでございます。

 本日はどのようなお問い合わせでしょうか。 

 はい。弊社の商品「とぶとぶくん」について説明して欲しいことがある、ですか。ご不便をおかけして申し訳ございません。その件、詳しくお話を伺わせていただけますでしょうか。

 はい、はい。昨日の夜に、ご友人が使われた、ということですね。手順書に従ってお使いになられたと。はい。

 失礼ですが、お客様はその時、どちらに。

 なるほど、すぐ隣にいらっしゃった。はい、はい、ご友人はぐっすりとお休みになられた、と。それはそれは嬉しい限りでございます。

 弊社一同はお客様の喜ぶ姿が見たい、その一心で研究開発をしております。ありがとうございます。

 ああ、はい。そのままお目覚めにならない。一日経っていて、身体も幾分冷たくなっていると。はい。

 大変恐縮ですが、ご友人がお休みになってから、今までどういった起こされ方をしておりますでしょうか。ええ。

 はい。揺すられた。しばらく経ってから叩かれたと。それでも目覚めない。はい。はい。

 手順書に起こし方は書かれていなかった。はい。確かにそういった場合はカスタマーセンターに今すぐお電話をと書いてあったかと思います、はい。お客様は聡明な行動を取られたかと思います。はい。

 お客様のお問い合わせをまとめますと、ご友人とお二人でおられる時に、ご友人が「とぶとぶくん」をお使いになられた。その後、ぐっすりと眠ったきり丸一日起きなくなった。やれることは全部やったが、うんともすんとも動かないと。そういうことですね。

 はい。はい。

 まず、こちらですね、大変申し訳ございませんが、お客様は大きな手順誤りをされておられます。「とぶとぶくん」をご利用になる際はですね、必ずお一人で使わなければならないのです。はい。

 そうでないとですね、ご利用者以外の方々のパラメータが干渉してしまってですね、想定通りに復元されないと。そのような結果が出ております。きちんとこの件はですね、弊社の公式サイトにも大きく記載されております。間違いございません。

 手順書に書いてなかった。はい、さようです。紙資源の節約のため、説明の一部を電子化いたしました。これによりですね、樹木200本分の節約につながっております。

 はい、はい、大丈夫ですので。どうか落ち着いてください。慌ててもですね、お客様のお悩みは何も解決しませんのでね。

 まだ「とぶとぶくん」は起動されていますか。はい。大丈夫です。まだご友人は置換されてはおりません。まだ復旧の機会はございますので、はい。

 本体右上のランプの色はどうなっておりますでしょうか。はい、赤の点滅。ああ、はい。お客様ひょっとしてですが、中古品をご購入されましたか。あら。そうなるとですね、誠に残念でございますが、サポートは致しかねます。

 本来はですね、弊社スタッフを派遣して対応といったことをするんですが、はい、赤の点滅となると、もう風前の灯火という意味になりますので。ちょっと間に合わないですね。はい、はい、申し訳ございませんが。安上がりに済ませようとした結果ですからね。

 つきましては、大変恐縮ですが、お客様の方で直接対応していただくことになりますね。一日経ってるのもあって、なかなか厳しい状態ではありますが。

 はい。はい。

 いえ、決してふざけているわけではないですね。誠に申し訳ございません。心外でございます。弊社一同はですね、お客様の笑顔を見るために日々尽力しておりまして。

 何とかしてほしい。はい。そうです。お客様が何とかするんです。それしかございません。手順は弊社の公式サイトに書いてあります。お客様のパラメータを書き換えて、ご友人が戻られるための狼煙ビーコンとして一時的に再構築、復旧されましたら、ご友人の手でお客様の波動パラメータを元に戻す。これを速やかにおこなう必要がございます。

 はい。はい。死ぬ可能性、はい。ございます。当然でございます。はい。弊社の商品はですね、いずれもお客様のために、真剣に作っておりますので。はい。限度を知りません。はい。

 ともかく、一度死んでいただけるとですね、宜しいのかなと。そう私は思うわけですけれども。

 はい、はい。いや、誠に差し出がましい意見であると、重々承知しておりますが、ご友人がそこまでですね、お客様にとって掛け替えのない人物だと、そう仰るのでしたら。自分も試しに死んでいただいてですね、ご友人のもとへ向かう。戻れなかったらその時はその時。それくらいのことは、やるべきだと、はい、そう思いますけれどもね。

 はい。はい。命はひとつだけだからやはり怖い、と。そう仰るわけですね。

 でしたら、問題はございません。弊社のベストセラー商品でございます「よびのいのち」をご購入いただければですね。

 あ、はい。要らない。そうですか。ではご友人は諦められると、それはまた随分と薄情でございまして。

 はい、はい。

 はあ、訴える、ですか。困りました。大変誠に嫌でございます。どうしたものでしょうか。

 弊社はお客様をはじめとした、社会の方々にですね、誠実に向きあっていくのだと、そう脊髄に教えこまれてきました。ですのでね、そういった訴えるといった暴力的な解決法ではなく、もっと協調、平和、穏健なですね、方法をとりたいと。

 はい、NDE一同、頭から手先の隅々まで、すべてそのように制御されております。

 はい、はい。そうですとですね、お客様のご母堂様、ご尊父様がですね、弊社の製品を愛用されていらっしゃるということですが。はい、ああ、初耳だと。それは誠に失礼致しました。

 はい、お客様のご慧眼であれば、続きは、はい、お分かりになられると思われますが。

 そうですか。はい。心配ございません。このお電話でですね、決めていただく必要もございませんので。後でですね、やはりご自身の吝嗇りんしょくを棚に上げてですね、やはり訴えを起こしたいと。そう思っていただいても構いません。

 弊社はお礼の準備をしてございますので、是非ともお客様のお好きなようにしていただけましたらと。


 はい、はい。他にご質問はございませんか。

 大丈夫でございますか。それはようございました。


 本日はご連絡いただきありがとうございました。

 あなたと一緒にいつまでも、NDE株式会社カスタマーセンターのオダマキが承りました。

 失礼致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エクストリーム・カスタマーセンター 脳幹 まこと @ReviveSoul

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ