おばけのオーケー

平 遊

ハッピー・ハロウィン!

「ばぁ!」


 ボクはただ、みんなと遊びたいだけなんだ。

 なのに。


「きゃぁぁっ!」

「わぁっ! おばけだっ! にげろーっ!」


 みんな、ボクのことを見ただけで、げていっちゃう。

 だからボクはいつも、ひとりぼっち。

 もうずっと、ひとりぼっち。


 いつからだったかな。

 気づいたときには、ボクはひとりでここにいた。

 まわりがゴツゴツした、暗いところに。

 最初さいしょこわくて、明るいところに出ようとしたんだけど、おひさまが出ている明るいところは、ボクにはまぶしすぎて出られなくて、おひさまがしずむ頃からおひさまが出てくる頃までしか、ボクは外に出られない。

 本当は、明るいおひさまの下でみんなと一緒いっしょあそびたい。

 だけど、ボクにはそれができない。

 だからせめて、お月さまやお星さまのやさしい明かりの下で、みんなと一緒いっしょあそびたいんだけどな……


「ばぁ!」


 たまにあそびにくる子たちに、いっしょうけんめい声をかけてみるのだけど、


「きゃぁぁぁっ!」

「おばけっ、おばけーっ!」


 今日きょうげられちゃった……



 ボクはこのままずっと、ひとりぼっちなのかな。

 さびしいな。

 ボクはただ、みんなとあそびたいだけなのに。

 どうしたらボクは、みんなと一緒いっしょあそべるんだろう?


 さびしくてかなしくて、ボクはお月さまやお星さまにおねがいしてみた。

 みんなと一緒いっしょあそべますように、って。

 すると。


「あれ? キミも仮装かそうしてるの?」


 白いフワフワしたものをたボクと同じような姿すがたの子が、ボクに声をかけてきてくれたんだ!

 でも、その子には足があったから、人間の子だっていうのがすぐに分かった。

 うれしくなって、ボクはその子にちかづいた。


「ばぁ!」

「キミ、すごいね。足が全然ぜんぜん見えないし、なんか本当にんでるみたいだし!」

「ばぁ?」

「ねぇ、キミなんていう名前? ここらへんの子? 僕ね、あきら。引っ越してきたばっかりで、まだ友達ともだちがいないんだ。良かったら、僕と友達ともだちになってくれないかな」


 あきらはちょっとはずかしそうにそう言った。


 トモダチ。

 なんだかとってもくすぐったくて、び上がりたくなるくらいうれしかった。

 だってボクにも、トモダチなんていなかったから。


「ばぁ!」

「それは、友達ともだちになってくれる、ってこと?」

「ばぁ! ばぁ!」

「ふふっ、おもしろいねキミ」


 あきらはうれしそうにわらう。

 ボクははじめて、人間の子供がわらっているところを見た。

 ボクもものすごくうれしくなった。ボクも一緒いっしょわらいたかった。

 おばけのボクには、笑うことはできないけれど。


「ねぇ、それでキミの名前は?」

「……ばぁ?」


 ボクには、名前なんてかった。

 だって、だれもボクをぶ人がいなかったし、だれもボクに名前をおしえてくれなかったから。


「う~ん……じゃあ、僕がつけてもいいかな?」


 そう言うと、あきらはちょっとだけ考えてから言った。


「うん。決めた。キミの名前は【オーケー】だ!」

「ばぁ?」

「キミは僕と同じでおばけの仮装かそうをしているでしょ? それで、『ば』しか言わない。まぁ、おばけってたいてい『ばぁ!』って出てくるもんね。そこで、【おばけ】から【ば】をってみたんだ。そうしたらのこりは、【おけ】でしょ? だから、キミの名前は【オーケー】。どうかな?」


 オーケー。

 それが、ボクがはじめてつけてもらった、ボクの名前。

 ものすごくうれしくて、ボクは思わずあきらのまわりをねまわった。


「ばぁっ! ばぁっ!」

「あははっ、気に入ってくれたのかな?」

「ばぁっ!」

「じゃあ、オーケー。そろそろ行こうか」

「ばぁ?」

仮装大会かそうたいかいだよ! だって今日は、ハロウィンじゃないか!」


 あきらがボクの体にさわろうとした。

 だからボクは急いで、その部分ぶぶんに力を入れた。

 ボクの体は力を入れないと、何もさわれないんだ。ただ、とおぎてしまうだけ。

 あきらはボクを人間の子だと思っている。だからこんなボクとあそんでくれようとしている。

 あきらにボクがおばけだってバレたらきっと、あきらも他の子と同じように、こわがってげて行ってしまう。

 それがボクには、こわかった。


「ねぇ、オーケー。この町の仮装大会かそうたいかいってね、優勝ゆうしょうするとお菓子がたくさんもらえるんだって! 僕たちもエントリーしてみようよ! オーケーなら絶対ぜったい優勝ゆうしょうできると思うよ!」

「……ばぁ?」

「うふふ……仮装大会かそうたいかいはじめて? 行けばわかるよ。僕はこの町のハロウィンイベントははじめてだけど、きっとたのしいと思うよ!」

「ばぁ!」


 あきらがボクの体の一部をきゅっとにぎる。

 きっと人間の子たちがやっている【手をつなぐ】っていうのなのかな。

 ボクには【手】はないけれど、あきらがにぎっているところがなんだかほわんとあたたかくて、ものすごく気持きもちいいなって思った。



 仮装大会かそうたいかいには、ボクが今までに見たことが無いくらいに、たくさんの人間の子がいた。

 中には、前にボクを見てげて行った子たちも。


「あ、あきら! おまえも来たのか」

「うん!」

「で、だれ? そっちのやつ。見たことないけど」


 人間の子が、ボクたちに近づいて来る。


 どうしよう?

 ボクがおばけって分かったら、みんなまたげちゃうのかな。

 あきらも……


 ボクはあきらからそっとはなれようとしたのだけど、あきらはボクをにぎる手にぎゅっと力をこめて言ったんだ。


「この子はオーケー。僕の友達ともだちだよ」


 トモダチ。

 あきらははっきりそう言ってくれた。

 ボクはきたいくらいにうれしかった。

 おばけのボクには、くことはできないけれど。



 仮装大会かそうたいかいでボクたちは優勝ゆうしょうした。

 もらったお菓子は、あきらと他の子たちみんなでわけた。

 おばけのボクには、お菓子は食べられないから。

 ボクはみんなから色々いろいろと聞かれてしまったのだけど、「ばぁ」しか言えないボクのかわりに、あきらがみんなからの質問しつもん色々いろいろこたえてくれた。


「ねぇ、足が全然ぜんぜん見えないけど、どうなってるの?」

「それは内緒ないしょだよねー? オーケー」

「ばぁ!」

「フワフワいているよなぁ? それ、どうやってんだ?」

「それも、内緒ないしょ! ね、オーケー?」

「ばぁ!」

「ねぇ、オーケーってどこにんでるの?」

「あっちの方だよ。今日は僕と一緒いっしょはじめてここに来たんだよねー」

「ばぁ!」


 あきらと一緒いっしょに、ボクははじめて人間の子たちとあそぶことができた。

 それは生まれてはじめての、ゆめのようにたのしい時間じかんだった。



「じゃあ僕、そろそろかえらなきゃ」


 最初さいしょ出会であったところまでボクをれて来てくれたあきらは、そう言ってボクの体から手をはなした。


「ばぁ……」


 あきらのあたたかさが急になくなって、ボクはとたんにさびしくなった。

 もうちょっとあきらと一緒いっしょにいたかったけど、でもダメだよね。

 だって、人間の子はもう、ねむりにつく時間じかんだから。


「ねぇ、オーケーってさ」

「ばぁ?」

「ホンモノのおばけなんでしょ?」

「ばぁっ⁉」


 急にあきらがそんなことを言うから、ボクはおどろいてび上がってしまった。

 あわてるボクを見て、あきらがクスクスとわらう。


「やっぱり」


 でも、あきらはげなかった。

 げないで、ボクをやさしい目で見た。


「ここはおばけが出るっていて気になったから、ちょっと前からコッソリ何回か来てたんだよ、僕。こわいおばけなのかなって思ってたんだけど、キミ、全然ぜんぜんこわそうじゃないし、なんだかいつもさびしそうだったから。だからね、一緒いっしょあそんでみたいなって、思ったんだ。それでね、今日はハロウィンだし、思い切って声をかけてみたんだよ。僕はすごくたのしかった。キミもたのしかった?」


 そんなの、たのしかったにまってる。

 だって、ボクだっていつも、みんなと一緒いっしょあそびたいって、思っていたんだから。


「ばぁ!」

「そっか、よかった! ねぇ、オーケー。僕たちもう、友達ともだちだよね? 僕、またここにあそびに来てもいいかな。他の友達ともだち一緒いっしょに」

「……ばぁ?」

大丈夫だいじょうぶだよ! オーケーはこわくないおばけだってわかれば、みんなもきっと一緒いっしょあそびたいって思うはずだよ」

「ばぁ……?」


 ボクはちょっと心配しんぱいだった。

 みんなも本当に、ボクとあそびたいって思ってくれるのか。

 そんなことしたら、あきらまで、みんなからあそんでもらえなくなるんじゃないかって。


大丈夫だいじょうぶ! だからまた明日あした、ね? っててね、オーケー!」


 たのしそうにわらって、あきらはボクに手をりながらかえっていった。

 ボクはまた、ひとりになった。

 だけどなんだかうれしくて、お月さまとお星さまにありがとうをしながら、おひさまが出てくるまでのあいだずっと、フワフワとおどりつづけた。



 それからのボクは、ひとりぼっちじゃなくなった。

 おひさまがしずむ頃からのみじか時間じかんだったけど、あきらがほか友達ともだちをたくさんれてあそびに来てくれるようになったから。

 最初さいしょこわがっていた子も、あきらのおかげで少しずつボクをこわがらなくなって、あきらがいなくても一緒いっしょあそんでくれるようになった。

 そんな時間じかんがこのさきもずっとつづいてくれると、ボクは思っていた。

 だけど。

 そのとき突然とつぜんやってきた。


「あれっ? オーケー今日きょういないのか?」


 いつも来てくれている子のうちのひとりが、突然とつぜんそんなことを言いだした。

 ボクはその子の目の前にいるのに。


「ばぁ!」

「オーケー! いないのか!」

「いや……オーケーいるよ? お前のまえに」

「えっ……」


 最初さいしょはひとり。

 そしてまたひとり。

 ボクの姿すがたが見えなくなる子が出始ではじめた。

 ボクはわすれてたんだ。

 ボクの姿すがたが見えるのは、人間であれば子供のあいだだけだということを。


 そして最後さいごのこったのは、あきらだけだった。

 だけどとうとう、あきらにもボクの姿すがたは見えなくなってしまった。


「オーケー。そこにいるんだよね?」

「ばぁ」


 もうとどかないとは分かっていたけど、ボクはあきらに声をかけた。


「なんとなく、分かるよ。残念ざんねんながら、もう見えなくなっちゃったけど」

「ばぁ……」


 ボクはさびしかった。

 またひとりぼっちになるんだと思って。

 だけど、あきらは言ったんだ。


「見えなくなっちゃっても、オーケーは僕の友達ともだちだよ。この町ではじめての、僕の友達ともだちだからね! 僕のこと、わすれないでね! 僕も絶対ぜったいわすれないから!」

「ばぁ……」


 あきらのやさしさで、ボクのむねはいっぱになった。

 ……おばけにむねなんて、あるのかな。

 でも。

 あきらの言葉ことばが、ボクにはすごくうれしかったんだ。

 見えなくても、トモダチ。

 あきらはずっと、ボクのトモダチなんだ!



 それからもたまに、あきらはボクのところに来てくれた。

 ボクのことが見えないから、全然ぜんぜんボクのいる方とはちがう方を向いてはなす時もあったけど、色々いろいろなことをはなしてくれた。

 ボクはあきらのはなしくのが大好きだった。


 そんなある日。

 ボクがひとりでゴツゴツした、暗いところにうずくまっていると、外から声がきこえてきた。


「ひかる。ここにはね、パパの大事だいじなお友達ともだちがいるんだよ」

「おトモダチ?」

「そうだよ。オーケー、って言うだ。んだら出て来てくれるかもしれない。一緒いっしょんでみようか」

「うん!」

「せーの」


「「オーケー!」」


 ボクはうれしくなって、外にび出した。

 おひさまがしずみかけて、ちょっとくらくなってきた中にいたのは、大人おとなになったあきらと、ひとりの小さな男の子。


「パパ―! しろい子がフワフワういてる! あの子がパパのおトモダチ?」

「そうだよ、ひかる」

「ばぁ!」

「『ばぁ!』って言ってる!」

「うん、オーケーはね、『ばぁ!』しか言わないんだけど、とってもたのしいお友達ともだちなんだよ。さ、パパはここで見てるから、オーケーとあそんでおいで」

「はーい!」


 大人おとなになったあきらは、とてもやさしい目でひかるを見ていた。そしてたぶん、ボクのことも。


「オーケー。この子は僕の子でね、ひかる、って言うんだ。どうか、友達ともだちになってやってくれないか」


 そんなの、あたりまえじゃないか!

 ボクの大切なトモダチの子は、トモダチに決まってる!


「ばぁっ!」

「あははっ! また『ばぁっ!』って言ってるよ、パパ!」

「そうか。ありがとう、オーケー」


 うれしくてなみだが出そうだった。

 おばけのボクは、なみだなんて出ないけど。


「オーケー。今年もまた、ハロウィンの仮装大会かそうたいかいがあるんだ。ひかると一緒いっしょに出てみないか?」

「ばぁっ!」

「パパ! オーケーも出たいって言ってる!」

「そうか! じゃあまた、優勝ゆうしょうしちゃうかもな!」

「ばぁっ!」


 ボクは、おばけのオーケー。

 もう、ひとりぼっちなんかじゃない。だからもう、さびしくなんかない。

 ハロウィンていうのがなんなのか、ボクにはよく分からないけど、でも、これだけはよくわかるよ。


 ハッピー・ハロウィン!


 そう。

 ボクにとってハロウィンは、あきらと出会であわせてくれた特別とくべつな日。

 とてもしあわせな日だから。


 だから。

 すべてのおばけと、すべての人間に。


 ハッピー・ハロウィン!


【終】

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おばけのオーケー 平 遊 @taira_yuu

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