好きな男子に告白する勇気が無い金髪美少女ギャルが、何故か気軽に話せる俺に構ってくる話

依奈

第1話


 朝、教室に着くと俺の席が取られていた。金髪ロングヘア美少女によって。


 いや、意味が分からない。


 彼女とは喋ったこともないし、彼女のことは何も知らない。


 席、間違えたのか……?


「あの、そこ、俺の席」

「知ってる」


 じゃあ、なんで退かねえんだよ!!


「ここからだと私の好きな男の子――潮乃しおのくんと頻繁に目が合うの。それにひんやりした風も気持ちいいし」


 知らねーよ。身勝手な理由じゃないか。


「ここ、俺の席。勝手に奪うな」

「一日だけ貸して? ううん、一週間」

「ベランダに出て、その潮乃くんって子を眺めるという選択肢じゃダメなのか?」

「分かった」


 お、こいつ、少しは話が通じる奴だったか。少しだけ安堵あんどする。


「座って」


 その金髪ロングヘア美少女は俺の席から立ち上がる。そしてそのように命じる。


 俺は自分の席にようやく座れた。と思いきや――。彼女は俺の膝の上に座ってきたのだ。


「は?」

「座り心地良いね」


 いやいやいやいや。なに、考えてんの?


「あの……そもそも、君の名前は? 俺は川瀬かわせらい

「私は園部そのべなぎ。頭がおかしいってよく言われる」

「だろうな」

「少しは否定してよ!」

「早速だが、園部さん。そういうスキンシップいいんで、俺の膝から退去してください」

「うーん、しょうがないなあ。じゃあ、今日は一緒に帰ってね」

「意味がわからない」


 俺の席は窓側の一番後ろ。

 一番人気のある席だ。園部さんの言っていた通り、見晴らしも良い。校庭も向かい側の校舎にいる人も綺麗な空だって見える。

 ちなみに潮乃くんは一学年年下の後輩で、向かい側の校舎に普段いるらしい。俺と園部さんは高校二年生。

 彼女の席は廊下側から二列目の、前から二番目の席だった。うーん、微妙だな。彼女の気持ちもなんとなく分かる気がする。だけど、人の席を取ってはいけない。


 身をひるがえして、遠ざかっていく彼女に一言。


「取り敢えずよろしく」

「よろしくー」


 園部さんはギャルみたいな子だった。

 明るくて、自由奔放で言葉は馴れ馴れしい。

 でもそこまで嫌悪感は抱かなかった。



 ――放課後。そういえば、彼女と帰る約束をしていたのをふと思い出した。待ち合わせ場所など決めていなかったので、適当に昇降口の付近で待っていた。しばらくして園部さんが姿を現す。


「ほんのちょっと遅くなってごめんね!」

「全然いいよ」


 靴を履き替えると、彼女は俺に顔を近づけてきた。


 ん? なんか顔にホコリでも付いてるか?


 そしてそのまま、顎をクイっと。――持ち上げた。


 ちょっと待て。これからキスでもする気かよ。


 顎クイされて、見つめられること数秒。

 彼女はこんなセリフを告げた。


「川瀬くんは潮乃くんよりカッコよくない」


 は? 失礼過ぎない?


 さっき少しでもドキッとしてしまった俺が馬鹿だった。単純すぎる。


「潮乃くんの上を目指して頑張って」

「俺、潮乃くんに会ったこと無いから、基準が分からない」

「今度会わせてあげるね!」


 なんなんだよ。何でそんな身内みたいな言い方するんだよ。園部さんの許可が無いと、彼とは会えないのか?


「もう潮乃くんと付き合っちゃえば? 俺なんかと一緒に帰ってる場合じゃない、園部さんは」

「――可能性を感じたの」

「可能性?」

「何でもない」


「とにかく! 川瀬くんと仲良くなりたいと思ったから、一緒に帰りたい。ダメ、かな……?」


 上目遣いは反則だ。


「まあ、いいけど」

「川瀬くんは優しいね。これで一歩、潮乃くんに近づけたよ」

「俺、潮乃くん目指してないんだけど」

「細かい所はいいの。コンビニ寄ろ?」


 そうして、コンビニの店内に二人で入ることになった。


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2024年10月24日 21:00
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