第4話 好きか嫌いか
冬美はソファで寝っ転がりながら、テレビを観ていた。有名な占い師がテレビで初めて占いをする事になり、出演者達が占いの結果に一喜一憂する姿が映し出される。湧き立つ番組側とは裏腹に、冬美は冷めた目でその光景を見ていた。
「曖昧な未来の話をマトモに受け取り過ぎだろ。多少は疑えよ。これじゃあ演技ですって自分から申告しているようなものじゃないか」
「ふっゆ~み君! 何観てるの?」
「詐欺師の講習。大体、占うんだったらもっと金になる事を占ってもらった方がいいじゃん。モチベーションの向上に繋がるし。まぁ、占いなんて当てにならないんですけどね」
「凄く現金ね!」
「じゃあ他に何を占ってもらうんですか」
「運命の相手との将来とか? あー! こんな所に相性占いの本が!! 偶然だな~!」
「随分と必然的な偶然ですね……」
麗香は相性占いの本を手に持ちながら、ソファに座った。冬美は気だるげに体を動かして、麗香の膝に頭を置くと、リモコンでテレビを消した。
「え~っと、どれどれ~……最初に、あなたと相手の名前と生年月日を用意してください。冬美君、生年月日は?」
「分かんない。歳も分からなければ、目覚めた時期も分かんない」
「じゃあ、私と同じって事にしときましょ。それで~……頭に浮かんだ色を用意してください」
「黒」
「じゃあ私も。それで―――」
「ちょっと待って。真面目にやってます?」
「やってるやってる! それじゃ、続けるね。えっと……頭に浮かんだ図形を用意してください。図形? え、これ本当に相性占いの本なの?」
占いの本に書かれている文に疑問が浮かぶ麗香。普通の占いの本なら、生年月日や星座などから占われる。しかし、この本は少し特殊なようで、この後も変わった事が書かれていた。
疑心暗鬼の中進んでいき、占いの結果が出る。麗香と冬美の相性度は三十パーセント。顔見知り程度であった。当然、この結果に麗香は納得していない。膝枕をする仲で、顔見知り程度とは信じられなかった。麗香は無意味だと分かっていつつも、不愉快な思いをさせた占いの本を睨みつけた。
そんな麗香の様子に冬美は溜息を吐き、麗香から占いの本を取り上げると、離れた場所に置いてあるゴミ箱に投げ捨てた。
「ゴール」
「納得いかない!!!」
「だから言ったじゃん。占いなんか当てにならないって」
「例え嘘でも、私達の相性は百パーセントって言ってほしいじゃん!」
「嘘でいいんだ……へぇー」
冬美は体を起こし、端の方へ座り直して麗香と距離を取った。肘掛けに乗せた肘の上に顎を乗せ、壁の方へ顔を背ける。モヤモヤとした感情が冬美の胸の中で蠢き、理由は分からないが、麗香の顔を見たくなかった。
冬美が拗ねているのはあからさまであった。そのキッカケは、麗香が自分達との関係に嘘を持ち出したのが原因。
お互い無言の時間が流れていくと、冬美の膝に麗香が頭を乗せてきた。冬美は無意識に麗香の方へ顔を向けてしまい、正面を向いている麗香と目が合った。
「私と冬美の相性は抜群よ」
「……まだその話ですか」
「だって、凄く気にしてたし」
「誰が?」
「君が」
「……別に」
真っ直ぐと見つめてくる麗香の瞳に、冬美は照れて顔を逸らした。だが、逃すまいと麗香は体を動かし、冬美が逸らした先の視界に顔を見せてくる。
「好きだよ。冬美君」
「ッ!?」
冬美の目を真っ直ぐと見つめながら、麗香は呟いた。突然の好意の言葉に動揺する冬美の慌てぶりに、麗香は微笑んだ。
「と、突然何を!?」
「簡単な相性占いだよ。相手の目を見つめながら、相手に対する自分の想いを口にするだけ」
「もはや、占いじゃないじゃん……」
「でも、こっちの方が信用出来るよ。目は心を表す。真っ直ぐとしていれば、それは揺らぎない本心。私は本心を伝えたよ。冬美君は?」
「僕は……」
喉の奥から這い上がってきた言葉を口に出そうとした矢先、躊躇いが生じた。その言葉を口に出すには、勇気が足りなかった。冬美は視線を麗香の瞳から少しだけズラし、誤魔化しの言葉を口に出した。
「嫌いか好きなら、まぁ……ご飯も寝床も用意してくれますし。話し相手にもなりますし。でも、たまに変な事してきて……それから……」
「ウフフ。それでそれで?」
「えっと……僕が出会った中では優しい方だし。長時間同じ場所にいても、不愉快じゃないし。一緒にいても、別に……」
「私が好き?」
単刀直入に聞いてきた麗香に、冬美は一息置いてから、逃げの一手を言葉にした。
「……嫌いでは、ないです」
「そっか……そっかそっか! 私の事が好きで好きでたまらないのね!」
「はぁ~!? 僕はそんな事一言も言ってないんですけど!?」
「そうとしか聞こえなかった! 言葉は違っても、私が好きだっていうのが十分伝わった……ありがとう」
麗香は冬美のおでこにキスをすると、キッチンにコーヒーを淹れに行った。冬美はキスをされたおでこに触れながら微笑むが、すぐに恥ずかしくなって、膝を抱えながらソファに倒れ込んだ。
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