第3話

都市部に向かう準備をしながら、ふとスマホに目を向ける

「凪に伝えなきゃな」

『凪』と書かれた連絡先にメッセージを送ろうとしたが、なんて打ち明けようか考え指が止まる

長考が続く中、簡単な言葉でいいから伝えようと指が画面に触れた瞬間

凪から一通の連絡が来た

「少し会えない?」


夜も更け月明かりが照らす頃、少年少女は何を思ったのだろう

澄み切った水と甲高いコオロギの鳴き声が響き渡る河川敷

水切りをしている少年の後ろで話しかける少女

「話聞いたよ」

少し戸惑いながらため息をつく

「父さんから聞いたのか…」

父は日程が決まり次第、俺が集落を離れる事を近所の人に話していたのだろう

少女は小さく頷く

「あのさ、すぐ戻ってくるよね?」

すぐに答えは出なかった

「ごめんな…祭り一緒に楽しもうとしてたのに…」

祭りは来週

楽しみにしてただけにとても寂しそうだった

「会えなくなるわけじゃないだろ?」

落ち込む姿を見ているとこちらも憂鬱になる

内心では俺も寂しかったのかもしれない

「うん、そうだよね。待ってる…私待ってるから!」

落ち込む少女はただ素直に、自分の気持ちを出しきったのだ

「約束だ」

「必ず帰ってきて」

お互いに手と手を重ねた


青々とした空に、輝く太陽が眩しく照りつける早朝

支度を終えた俺は、父の車に乗り込み集落を離れようとしていた

気持ちいい晴れやかな天気とは裏腹に、静寂が車室を包んでいる

「あいさつは済ませたか?」

軽く頷く

父はそれ以上、話を続けようとはしなかった

集落を過ぎようとした時、僕の中で大切な場所が見えた

『ヒマワリ畑』

小さい頃よく凪と遊んだ事を思い出す

今じゃヒマワリを育てる人はいなかったが定期的に凪と一緒に来ていた

凪とは昨夜以降、話していない

自分勝手に決めたことを根に持っているのだろう

そんなことを考えていると一輪のヒマワリが動き出した

昨夜のことは納得してくれたのだろう

ヒマワリ畑の中に隠れていた少女は満面の笑みで手を振っていた

「すぐに帰ってくる…」

少女の見送りに小さく呟いた

聞こえないはずなのにピースで合図する


車内はお日様の香りがした

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