第2話

「何も買わなくて良かったの?」

少女が顔を覗き込んでくる

「欲しいものが無かっただけ」

お婆さんの話が気になって駄菓子に目がいかなかった

「ふーん」

そういうと少女は手の中で何かを作っている

「大型建設か」

生まれてこの方そんな事業を集落ぐるみで行ってこなかったし最近までそんな素振りはなかったのに…いったい何故?

俯いて考え歩いていると少女が目の前に立った

「ジャジャーン!どう?すごいでしょ!」

手のひらの中にお菓子の紙で作った小さな鶴

少女の器用さが全面に出た作品とよべる物だろう

鶴を見せてきたその姿は、まるで誉めてもらいたい犬のようだ

(顔を曇らせている俺を見て元気を出そうとしてくれたのだろう)

そう思うと不意に手が出ていた

その手はまるで犬を撫でるように、力を加えず優しく少女の頭を撫でていた

「ち、ちょっと⁉︎なにしてるの!」

赤面した彼女の言葉で我に返って手を止めた

「ごめん…嫌だったか?」

少女の顔を伺うと今度は頬をぷっくりさせて不機嫌になる

「い、嫌じゃ無い…ちょっと驚いただけ…」

満更でも無い顔だ

昔から一人で何もかも行なっているせいか、こうして心配してくれる人が居ると胸が暖かくなる

赤面する凪を撫でながら帰路についた



家の前で凪を見送り、玄関を開けようと鍵を刺すと違和感に気がついた

「開いている?」

家の鍵を持っているのは俺と父しかいない

不安に駆られながら玄関を開けて中に入る

やはりというべきか父の靴がそこにはあった

仕事が忙しくたまに帰るのが普通になっていた我が家ではそれは異常と言う事を示していた

重々しい空気の中、居間の扉をあける

腕組みをして考え込んでいる男がこちらに気がついた

「いつも通りのようだな」

俺の何を知った気になっているのか分からないが、久しぶりに会う息子に対して父親が発する言葉ではなかった

「……」

俺は小さい頃に母親が亡くなり、それ以降父の顔を見る機会は減っていった

たまに顔を見にくるが、俺の中の印象はあまり良く無い

「深まった溝は浅く無いか…」

以前からもそうだが、父は俺との関係が悪い事を理解している

「……」

どう受け答えしていいか分からず沈黙の時間が流れる

「はぁ…前々からおじいさんの状態が良く無いことは知っていたと思うが、今日の午前中に診療所から連絡があった。おじいさんが倒れたそうだ」

「⁉︎」

父が急に戻ってきた疑問が解けたと同時に頭が真っ白になるほどのショックを受けた

元々おじいちゃんが好きだった俺は、昔から祖父の隣を歩いていた

そのため母親が亡くなって、拠り所がなくなった俺は祖父の家で生活し、祖父から愛情を注がれていた

父はあえて俺に伝える為に戻ってきたのだろう

一呼吸置き冷静になり問い返す

「それでどうするの?」

今の集落では医療技術が乏しい為、すぐに対応しないと命の危険がある

「大きな施設での治療が必要となる…そこで都市部にある病院に移そうと計画している。予定では、都市の病院で治療を行い安定までに2年はかかるそうだ」

父が言いたい事は、この2年集落を離れ病院に通う事を意味していた

「俺がどう答えるか知っていて、戻ってきたんだろ」

話を聞いた瞬間から俺の決意は固まっていた

父は鋭い眼差しで俺をみている

「いく」

顔を上げると微笑んでいる父の顔が見えた

「クソ親父」

皮肉混じりに笑みをこぼしながら吐いた


昔からの印象は変わらないが

少しだけ父との距離が縮まった気がした

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