お犬様が超能力を得たなら何を望むか?

ちびまるフォイ

犬の惑星

それは動物実験の一環だった。


「な、なんだこの力は!?」


薬を投与された犬は超能力を発現。

周囲2m以内のすべてを吹き飛ばしてしまう。


「早く殺せ!!」


実験失敗だと緊急処分ボタンを押すが、

銃も火もなにもかも犬バリアにより無効化。


犬は新たに手に入れた瞬間移動により

あっさりと新人類進化センターから逃走してしまった。


「偉いことになったぞ……」


すぐに超能力を持った犬のニュースは世間に出回った。


瞬間移動、絶対防御、時間停止とやりたい放題の犬に対し

人間はせいぜいが銃を持って犬を探し回るだけだった。


「親方、こんな銃火器も役に立つんですか」


「無駄に決まってる。でも何もしないわけにもいかないだろ」


「はあ……」


「いたぞ! いたぞぉぉぉ!!」


路地裏にいた犬にガトリングガンをぶっ放す。

その弾丸も犬バリアに弾かれて傷ひとつつけられない。

人類文明の敗北の瞬間だった。


「ワン」


犬は興味なしとばかりに人間へ目もくれず、

気ままな散歩の続きをはじめたのだった。


人類はこの非常事態に各国の偉い人を呼び集めて会議を行った。


「今や超能力犬は繁殖し、その数を増やしています」


「むう……。まさか人類存亡の危機が、宇宙ではなく内部からとは」


「銃も効かない相手にどうすればいいのでしょうか」


「核を使おう。それなら倒せるはずだ」


「バカ言うな。奴らは瞬間移動できるんだぞ。

 時間停止している間に瞬間移動でさっさと逃げられる」


「ではウイルスを散布しましょう」


「犬の嗅覚ナメてんのか。

 人間の3000倍以上だぞ。ウイルスなんてすぐバレる」


「どうすれば……」


「いっそ地球をあけ渡しましょう。

 我々だけ新しい母星に移住すればなんの問題もない」


「そうするか……」


会議も諦めムードになったそのとき。

会議場へ秘書が慌ててやってきた。


「大変です! 移住予定の母星がぶち壊されました!!!」


「なんだって!? 犬のしわざか!?」


「それ以外考えられないだろう!」


犬はきまぐれに口から光弾を発射すると、

空に見えていた母星を破壊してしまった。


「ああ……終わりだ……お犬様は怒ってらっしゃるのだ……」


「これも犬を好きなように使ってきたヤキが回ったのか」


「犬にひれ伏すときが来るとは……」


人間の科学力を持ってしても太刀打ちできない脅威。

退路も絶たれてしまった人間は犬への降伏を決めた。


「人間の敗北だ。

 これからはお犬様に従うようにしよう」


「しかしそれがお犬様に伝わるのか?

 降伏したことを理解できずにぶち殺されないか?」


「たしかに……」


「なれば私が犬語翻訳機を作りましょう。

 そうすれば人間の意思も伝わるはずです」


「それだ!」


こうして人間は世界全土に降伏宣言をし、

お犬様に向けたあらゆる戦闘行為を停止した。


各国の偉い人たちは裸に首輪とリールを巻き、

お腹を出して精一杯の降伏したことをお犬様に見せつける。


そのぶざま極まりない姿のまま、

犬語翻訳機で降伏を伝えた。


『お犬様、お犬様。愚かで卑しい人間どもは、

 お犬様に完全に降伏しました。もう逆らいません。

 どうか。どうかこの惑星に共生することをお許しください』


「……」


犬は答えない。

不服なのだろうか。


『申し訳ございません。これまでお犬様に行っていた

 あらゆる非礼、蛮行を謝罪しておりませんでした。

 お詫びに人間を半分まで削ります。それでいかがでしょう?』


「……」


犬は沈黙したままだった。

人間はさらに焦る。


『不十分だとおっしゃるんですね、その通りでございます。

 地球の90%以上をお犬様のものとしてください。

 下等生物である人間は地中でひっそりと暮らします。

 ですからどうか、どうか根絶やしにだけはしないでください!!』


お犬様の鋭い眼光に人間はすくんだ。

犬がその気になれば人間なんてすぐに絶滅させられる。


交渉なんてハナから無駄な行為だと人間は悟った。

これはただの命乞いでしかなかった。


それを受け入れるも受け入れないもお犬様のさじ加減。


人間たちは人生の終わりを実感したとき、

お犬様は犬語翻訳機で審判の言葉を言い放った。



『そんなことよりおやつください』




かくして人類の未来は1本のささみジャーキーにより救われた。

人類は今も存命のために絶えず献上をし続けているという……。

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