第3話 搭乗ちょっと許可説く
タイ人は全く何の根拠がなくても
タイに帰国する当日、娘はそれまであちこちのスーパーで探しても入手できなかった「うまい棒・タコ焼き味」を空港途中のコンビニで見つけてすっかり舞い上がっていた。
「この味がイチバン美味しいんだから!」
タイに帰国するにあたって巨大なスーツケースは衣服でいっぱい。機内持ち込みできる大きさの小さなスーツケースに、身の回りの物などを詰め込んだアネロバッグで搭乗するはずだった。
ところがなぜか娘はもう一つ、アネロバッグと同じ大きさのプラスチックバッグを持ち込もうとしていた。お土産用の日本のお菓子を大量に買ったせいで、大小のスーツケースやアネロバッグにも入りきらなくなっていたのだ。
「いや、それは機内に持ち込み出来ないでしょ。機内持ち込みできるのは身の回りのものを除いては一つだけなんだから」
「でも、前はできたよ。せっかくなんだから日本のお菓子をたくさん持って帰りたいじゃない」
「前は前。手荷物は原則一つまでって、ちゃんとそういうルールになっているから」
「大丈夫なんとかなるって!」
「そうかなあ。じゃあ、まあ、やってみれば」
出発前夜、そんな会話をしたワタクシと娘。
その娘のプラ袋には、立ち寄ったコンビニで購入した「うまい棒・タコ焼き味」15本プラスアルファのお菓子がさらに追加された。おいおい。
そして、いよいよ空港で国際線のチェックイン。機内持ち込み用の小さなスーツケースも念のために計量された。重さは10キロに近かった。けっこうギリギリで攻めている娘。
そんな娘の手にはアネロバッグの他に大きなプラスチックバッグが。係官がそれを見逃すはずもない。
「ちょっと大きい荷物がまだありますね。念のため計量させてもらえますか?」
さあ、追い詰められたぞ我が娘よ。計れば下手したら超過料金が取られるか? それとも持ち込み不許可であきらめるのか? ちなみにワタクシのバックパックも容積も質量も実は限界突破して、娘のお菓子を引き受けるスペースはないのだ。お前はこの危機をどう切り抜ける? オラ、ドキドキしてきたぞ!
そのとき娘はこういった。
「〇〇は〇〇〇です。〇〇〇〇〇〇〇〇、〇〇〇〇〇ます!」
「「え⁉」」
娘は完ぺきな日本語で答えたが、いやいやそれは質問の答えにもなっていないぞ! ワタクシも係官もフリーズしてしまった。
だが、係官は、何とも言えない生暖かい目でワタクシたちを見ると、ぎごちない微笑でこう言った。
「わかりました。では、そのままで行っていいですよ」
「ありがとうございますっ!」
なんですと! あんな受け答えで、手荷物持ち込みがパスできるだなんて信じられない!
さあ、ここで今日のクエスチョン。はたして、わたしの娘は何と言ったのか?
正解はコチラ。
「これはお菓子です。飛行機に乗る前に、ぜんぶ食べます!」
「「え⁉」」
ワタクシも係官もフリーズしてしまった。おい! 娘よ! なんだその受け答えは⁉ なぜそんな発想が出てくる! お前は「うまい棒・タコ焼き味」15本プラスアルファのお菓子を本当に空港で食べきるつもりなのか⁉
だが、係官はそんなワタクシの戸惑いをよそに何とも言えない生暖かい目でワタクシたちを見ると、ぎごちない微笑でこう言った。
「わかりました。では、そのままで行っていいですよ」
「ありがとうございますっ!」
なんですと! あんな受け答えで、手荷物持ち込みがパスできるだなんて信じられない!
これはアレだ。うちの娘。父親のひいき目だが、まあまあカワイイ。でも、そこであの発言だ。さぞかし「残念な子」と思われたのではないか。いや、もはや「残念な子」すら通り越して、お菓子がとっても大好きで無茶苦茶な言い訳を必死でしている「可哀そうなアホの子」認定されたのではなかろうか。そうだ、あの生暖かい目はそうに違いない。
お菓子を持ち込めてよかったな、娘よ。だがなあ、お前が子供だったら素直に微笑ましいと思うけれど。ちがうだろ。
お前、今年28歳のアラサーだぞ! ちょっとは自分の年齢に自覚を持てよ。
お菓子を持ち込めてほくほく顔の無自覚な娘に代わって、父は色々とイタイ思いを一人引き受けたのだった。父はちょっと恥ずかしいぞー!😥
ドキッとちょっと想定外😅 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます