第2話 丸い地球の水平線

 所要があって娘と一緒に大きめの郵便局にいた。


 郵便局の中をいろいろ見て回っていると、がん保険のポスターがあった。どうやら日本の郵便局では外資系の保険会社とタイアップしてがん保険も扱っているようだ。


 ポスターの下に面白いものを見つけた。


 乳房おっぱいの模型だ。


「おい、娘よ。あれを見るがよい」


「あ、おっぱいだ。なんで、あんあところにおっぱいがあるの?」


 娘は話すほうはバイリンガルで流ちょうな日本語を話すが、残念ながら漢字は苦手だ。


「あれは、乳がんの自己触診用に作られたものだって。柔らかい乳房おっぱいの模型の中に揉むと硬いしこりがあって感触で分かるようになっているんだと。揉んでみたらどうだ? 比べたら自分の乳房おっぱいにしこりがあるかどうかわかるぞ」


「パパ。わたしのも触ると硬いよ」


「なん……だと……!」


 まさかワタクシの娘も乳がんの可能性があるのだろうか⁉


「わたしの胸、全部硬いから、しこりがあるかなんか分からないってば」


「へ?」


 そうだった。すっかり忘れていた。娘はすごくスレンダーな体型であって、胸もはっきりいって「大平原の小さな胸」だった。そうか、その固いのは骨か! 肋骨なのか! うん。そりゃあ間違いなく硬いな。


「お母さんも、わたしがブラジャーする意味ないんじゃないなんていってるし」


「……そうか」


 大丈夫だ。娘よ。完全なフラットっていうことはあるまい。きっと丸い地球の水平線くらいの曲線は描いていると思うぞ。たぶん。


 そう思ってはみたが、全然慰めにもなってないので口には出せなかった。

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