ドキッとちょっと想定外😅
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
第1話 限りなく透明なウォーター
ワタクシが娘と日本に一時帰国していたころ、ワタクシが住むタイのとある地方は過去50年で最悪の洪水を迎えていた。集中豪雨のため市内中心を流れる河が氾濫したのだ。
日本にいても、LINEにタイから次々と情報が入ってくる。会社の同僚たちも、深夜突然流入してきたカフェラテ色の床上浸水に、ある者は身一つで避難、ある者は避難すらできず、水に浸かったまま救助を待つありさまだった。車ごと避難できた同僚は「アンタは運が良かった」などと言われていた。
繁華街のメインストリートはもはや河だ。泥の河だ。
ニュースを見れば、繁華街のとあるホテルでは対洪水用防壁と言うかバリケードを購入していて、その防壁を急いで張り巡らせたために周囲が泥の河に沈んでもホテルの敷地内をきっかり守り通していて大きな話題となっていた。もっとも、このホテル、敷地内にそれでも入ってきた水を隣の敷地内に捨てたり、従業員に対しては「ずぶ濡れでもホテルで着替えればいいからざぶざぶ歩いてともかく出社して来い!」などという非人道的なことを平気で要求したりと、いろいろ闇が深そうだ。
そもそも、洪水時は下から湧き上がる洪水の水の水圧でマンホールのふたが外れることもある。しかもカフェラテ色の洪水の水に地面が覆われているとマンホールのふたが開いていようとそうでなかろうと全く見えはしない。出社も命がけである。
そんな大洪水の最中、自宅から送られてきたLINEの動画では自宅の台所がすっかり水浸しになっていた! 義母たちが’なんとか床の白いタイルの上の透明な水を台所から外に掻き出そうとしている。市内の河からはずいぶん離れているはずだが、その小さな支流が近くを流れている。さてはそこが氾濫したのか?
うん? どこか変だ。なんか変だ。でもその違和感の正体が分からなかった。
そうしたら、LINEでメッセージが。
「お
洪水やなかったんかい! そりゃただの人災じゃあ!
よりによって
そう言えば、水がカフェラテ色じゃなくてずいぶんと透明だったなあ、と遅まきながらようやく違和感の正体に気付いたワタクシだった。
「木製合板の食器棚が水を吸ったら倒れるかもしれないじゃないのよ。まったく、お母さんたら何やってんのよ」
そうぼやいていたワタクシの家内であったが、その20日ほど後、自分の母親と全く同じ間違いをやらかして、市内は全く洪水がないのに我が家の台所だけが再び透明な水によって床上浸水となっていた。
あんたら間違いなく親子だよ。
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