私だけ

西悠歌

第1話

朝4時にベッドから出て、すぐ机に向かい前日の復習をする。必要な時はその日の予習も。こんなことしてるのは私の学校で一人かもしれない。


復習と予習はそんなに量もなくてすぐに終わるから、その後にスマホで2時間ほどゲームする。テスト期間中でも欠かさないから、クラスで一番このゲームをやっているのは私かもしれない。


朝ごはんを全部、利き手と逆の手で箸を使って食べた。怪我したわけでもないのにやってる人、私だけかもしれない。


その後テレビを見ながらゆっくりするから、いつも登校はギリギリになる。起きた時間と到着時間の差も、普段の真面目さとのギャップも私が一番なんじゃないかな。


「はい。」「はい。」「はーい。」

授業中にこんなに手を挙げるのも私だけだ。


給食の時間にはずっと前を向いて誰とも話さずに食べる。これが常識になっている時代なんて、滅多にないだろう。


昼休み、昨日借りて読み終えた本を持って、急いで図書室に向かう。この学校で一番図書室に通っているのは私かもしれない。


それでも家には図書から借りてきた本が20冊近くある。私は多分学校で一番本を読んでいるし、図書館と図書室をはっきり区別しようなんて、他の人は考えもしないだろう。


午後の授業中みんなは眠い眠いと言っているけれど、私は全然平気だった。その起きている頭で理科のプリントの余白に最近覚えた歌の歌詞を書いていたのも私だけかもしれない。


部活が始まるまでの時間、同じ部活のクラスの友達にこんな話をした。

「私に見えている色と、他の人に見えてる色って、同じ見た目なのかな?」

彼女は首を傾げた。

「えーどうなんだろう?考えたこと無かったなー。」

やっぱりこんなよく分からないことを考えているのは私だけなのかもしれない。


部活中、友達が突然ピアノを鳴らしてこれ何の音でしょうと言った。一つ答えるとそこから音当てクイズ大会みたいになって、全問答えられたのは私だけだった。意外とみんな分からないらしい。


部活が終わると昇降口の前で部活メンバーとしばらく喋るのがいつもの流れだ。メンバーはよく恋バナとか愚痴会とかをしている。興味はあるけど話すことは無いから聞くだけにしているのは私だけだ。


家の方向がバラバラなので帰り道を一人で歩いていく。ああ、今日もたくさん『私だけかもしれない』と思うことがあった。でもきっとみんなそんなことは考えている。


…って考えているのは私だけ、かもしれない。

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私だけ 西悠歌 @nishiyuuka

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