クラスメイトに秘密を握られ奴隷契約を結ぶことになりました

ゆずしお

第1話

 はあ、最悪……職員室に寄っていたら授業に遅れそうだし。しかも、体育だから着替えもあって遅刻確定だ。

 わたしが早く戻りたいオーラ全開なのに、話し続ける先生って何なんだろうね。おじいちゃんの先生に多い気がする。


 ぶつぶつと誰に言うわけでもなく、ちょっとしたイライラを心の中で吐き出して落ち着かせる。

 更衣室に着くと部屋の明かりもつけず、急いで着替える。当たり前だけど、わたし以外に誰もいなかった。


 いつもなら友達と一緒に着替えるけど、実はそれがすごく苦手だ。わたし、女の子が好きだから。

 変に意識してしまって、着替えるときは気まずくなるし、どこを見ていいかも分からない。特に、胡桃ちゃんの前では。


「でも、今日はラッキーかも……」


 遅れてきたおかげで、誰にも見られず1人で着替えられる。

 そんなことを考えていたら、隣のロッカーから制服がはみ出しているのに気づいた。自然と目がそこに向く。


「これ、胡桃ちゃんのだ」


 鼓動が少し速くなる。目を閉じても、あの明るく優しい彼女の笑顔が浮かんでくる。友達でもないのに、わたしはずっと胡桃ちゃんを密かに見ていた。

 何度も話しかけたいと思ったけど、話しかけられなくて、ただ遠くから見ているだけ。でも、今日は彼女の存在がこんなにも近くにあった。


 ……今なら匂いを嗅いでもバレないよね?


 その考えが、わたしの中で膨らんでいく。手を伸ばし、彼女の制服を軽く掴んでみる。ふわりと、彼女の温かさがそこに残っている気がした。

 気づけば、制服に顔を埋めていた。鼻を近づけると、柔らかくて優しい香りが鼻腔をくすぐる。


「やば、めっちゃいい匂いする」


 わたしの性癖はノーマルなはずなのにどうしてこんなことを……変態じゃんわたし。

 そろそろ授業に向かわないと、頭では分かっているのに今のわたしは、欲望に支配され正常な判断ができない。


 罪悪感と興奮が混じり合って、頭が真っ白になる。


「最悪……クラスメイトの匂いでこんな気持ちになるなんて……」


 そう思いながらも、既にわたしの体は少し湿っていた。


 これ、いま収めないと授業に集中できないやつだ。そう思ってスカートに手を伸ばす。そのとき、不意に視線が床に移る。

 何かが変だ。扉が開いている。そこから光が漏れ、部屋が少し明るくなっていた。


「あれ、わたし閉めたよね?」


「……わたしが開けたのよ」


 その瞬間、一気に体から熱が引き、心臓が跳ね上がる。


立花美琴たちばなみことさん……何でここに?」


「ここは女子更衣室でしょ?着替えにきたのよ」


 淡々とした口調でわたしを見つめる。その目は冷たく光り、まるでわたしを見透かしているようだった。

 長身でスラリとした彼女は、まさに圧倒的な存在感を持っている。普段は表情をほとんど変えないのに、今はわたしに向けてうっすらと微笑んでいる。それが、何よりも怖い。


「いつからいました?」


 思わず聞いてしまった。来たばかりなら、もしかしたら何も見られていない可能性だってあるし。


「匂いを嗅ぎ始めたところから」


「つまり、全部見られてたってことじゃん」


「そうだね」


「お願い、誰にも言わないで」


 美琴さんはわざとらしく考え込む仕草を見せる。


「どうしようかなあ」


「お願いします……」


 美琴さんの目は、まるで獲物を捕らえる蛇のように鋭く、わたしに向けられている。

 その状況にわたしは、視線を落としてただ怯えて懇願することしかできない。


「ねえ、どうして胡桃の制服の匂いを嗅いでたの?」


 あまりに直接的な質問に、チクっと心臓を刺されたような痛みを感じる。

 どうして?それは、わたしが胡桃ちゃんのことを好きだから。でも、そんなこと言えるわけがない。何も答えられず、ただ沈黙する。


「答えられないの?」


 美琴さんがゆっくり近づいくる。わたしの目の前に立ち、顔を覗き込むようにして低く囁く。


「やっぱり胡桃のこと好きなんだ」


「そ、そんなことないよ!」


「無理しなくていいよ。匂いを嗅いでる時の君、すっごく幸せそうだったよ」


 その言葉に、顔が熱くなるのを感じた。

 恥ずかしさで消えてしまいたい。美琴さんはさらに一歩踏み込んでくる。逃げ場はない。


「ねえ、こうしようか。このことを黙っててほしいなら…」


 今の彼女の声には、とても甘くてドロッとした感情が籠っていた。


「わたしの言うことを、何でも聞くって約束して」


「…え?」


 思わず聞き返してしまう。美琴さんは変わらず笑みを浮かべて、わたしをじっと見つめていた。冗談ではない、その目がそう語っていた。


「簡単でしょ?秘密を守るかわりに、わたしの奴隷になってよ」


「奴隷…?」


 淡々と、あまりにも自然に「奴隷」という言葉を口にした。

 そんな簡単に言われても、「なります」なんて軽々しく言えない。


「大丈夫。そんなに酷いことはしないよ。君にだって、ちょっと面白いかもって思うかもしれないわ」


 さらに軽く言葉を続ける。少しの優しさを見せるがかえって恐ろしい。

 何を考えているのか、全く分からない。だけど、彼女の持つ支配力に、わたしはすでに抗えないことを感じていた。


「どうするの?選ぶのは君だよ。奴隷になって秘密を守るか、皆にバラされるか」


 追い詰められた。そんな選択肢を前に、もう逃げ道が残されていなかった。もし、このことが誰かにバレたら、わたしの学校生活は終わりだ。

 胡桃ちゃんにも嫌われるし、周りの友達も絶対に引いてしまう。それだけは絶対に避けたい。


「…わかった」


 震える声を抑えて答える。何か別の方法があるはずだと思いたかったけれど、この状況では彼女の要求を飲むしかない。


「じゃあ、これからはわたしの言うことを全部聞いてもらうわよ。何でもね」


「わかりました。それじゃあわたしは授業に行くので」


 逃げるように更衣室から出ようとすると、彼女はわたしの腕を強く握り引き止める。


「あの、このままだと欠席扱いになるんで」


「いいよ、そんなこと。それより続きを見せて」


「続きって何のことですか?」


「胡桃の制服を嗅いでいるとき、自分の秘部に手を伸ばしてたわよね。ナニをしようとしていたか私に見せてくれる?」


 そう言うと、更衣室のカギを閉めてしまう。これで外から人が入ることはできず、中で行われることは外部に漏れることはない。


「忠誠心を確かめないとね。私の言うことをしっかり聞けるかの。もちろん見せてくれるわよね?」


「本当にしないとダメですか?」


「当たり前でしょ?安心して、それ相応のご褒美を用意してあげるから」


 何を言おうと拒否権なんてものはないと分かっている。

 ご褒美が何を指すものなのか気になるけど、今は命令に従って自分の保身を優先しないと。


「は、始めますね」


「どうぞ」


 わたしは、美琴さんに見られながらスカートの中に手を入れる。

 そして、下着越しに指でなぞる。


「んん……」


 思わず刺激に反応して声が漏れる。

 見られているのに、体が反応しちゃう。


 なるべく早く、この状況から抜け出すために新たな刺激として、胡桃ちゃんの匂いを思い出す。


 そこからは、記憶が曖昧。10分ちょっとくらいで、絶頂を迎えその場に座り込んだことだけは覚えている。

 1人でするときは、もっと時間が必要なのに……わたし、見られて興奮してたのかも。


 小刻みに呼吸をし肩を揺らし、余韻に浸る。

 その様子を美琴さんは、独占的な視線で見ていた。


「よくできました」


 そう言うと、ロッカーにもたれ掛かっているわたしを抱きしめ、頭を優しく撫でる。


「じゃあ次は宣言をしよっか。自分の口から『奴隷になります』って」


「わたしは、立花美琴さんの奴隷になります」


「ちゃんと分かるように自分の名を名乗ってちょうだい」


「……篠澤椎名しのさわしいなは、立花美琴さんの奴隷になります」


 緩みきったわたしの体は、自然と涙を溢していた。何でだろう……自分のせいとはいえ、こんな酷いことされてるのに、美琴さんの体温が心地よい。


 朦朧とする意識のなか、彼女はわたしの涙をペロッと舐める。


「ふふ、美味しい。これが椎名の味」


 始めて、彼女の子どもような柔らかい笑顔を見た。美琴さんも無邪気に笑うことあるんだ。


「これからよろしくね。可愛い私の奴隷ちゃん」


 いつの間にかわたしは、胡桃ちゃんの匂いを忘れて、美琴さんの匂いに塗り替えられていた。

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