闘う父と愛娘

@Yuu_99

プロローグ〈娘の誕生〉

 強い日差しが照り、白い砂浜が太陽の光を反射し眩しく光る暑い夏の昼間、王都である首都から海を挟み、南へ少し離れた場所にある小さな領地の領主の元に元気な女の子の産声が響き渡った。


「ご主人様!元気な女の子でございます!」


先程まで領主の妻の出産を手助けしていた侍女長であるニーナが、勢いよく部屋の扉をあけ、妻を案じていた領主に笑顔で告げた。

「奥様もご無事でございます。ご主人様をお呼びですよ」

汗をかき疲れた様子もうかがえるニーナだが、目に涙をため、安堵と興奮が入り混じったような笑顔に、あら夫である領主は妻の部屋へ飛び込んだ。


そこには、出産という自身の命をかけた奇跡を起こした妻が、ベッドの上で腕の中にいる子供を愛しそうに見つめる姿があった。今までに見たことのないほど美しい妻のその姿を見て、夫は一瞬扉の前で佇んだ。落ちる長い髪を耳にかけながら、気づいた妻が夫に微笑み声をかける。


「アラン、お待たせしました」


妻の声にアランはハッと我に帰りゆっくりと妻に近づく。妻の腕に抱かれる子供の顔を覗き込み、息を呑んだ。

アランにそっくりな栗色の髪と顔立ちに透き通るような真っ白な肌、外の世界に来たばかりで眩しそうに瞑った目。強く握る小さな手に、妻の腕の中で時折動く小さな体。

自然と涙がこぼれ、アランは呟いた。


「なんて美しい子だ」


堰が切れたように次々と目から涙が溢れ出た。

「なんて愛おしい、なんて愛らしい。私はこの子の父になったのか。なんて光栄なことだ」

子供を抱く妻を優しく抱きしめ、アランは続けた。

「リシェ、ありがとう。よく頑張ってくれた。君が妻で私は世界一の幸せ者だ。必ず君たち二人を守ると誓うよ」

涙をぼろぼろとこぼしながら話す夫に、もう、と困ったように眉を下げ、リシェは微笑んだ。そして、アランの頬に流れる涙を指で優しく拭いながら質問した。


「アラン、この子の名前は決まっていますか?」


「ああ、考えていたのがある。でも君に似ているだろうと思って考えていたんだ。こんなに僕に似ているなんて」アランは不安そうにリシェを見た。


「どんな名前でも、お父様が一生懸命考えてくれた名前だもの。きっとこの子も嬉しいわ」

「お父様・・・」


お父様という言葉に幸せと喜びをかみしめ、アランはまた涙をこぼした。そして、生まれたばかりの可愛いわが子の頬を撫でながら優しい表情で話し始めた。


「君のお母様はね、この国で一番美しい人なんだ。最初に見たときはどこの国のお姫様かと思ったんだよ。だから、お母様のお腹に君が来てくれたと聞いたとき、女の子なら絶対この名前にしようと決めていたんだ。ようやく呼べるね・・・キラリンプリンシ

「やめて。」


アランが言い終えるより先にリシェの冷たい声が部屋に響いた。



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