後編『アウフヘーベン』

 後日。


「はいこれ、夕ちゃんの粘土よ」


 母は、ゆうにも油粘土を買い与えた。


「わーい! ゆーちゃん、ねんどであそぶ! こねこねするー!」

 夕は、自分専用の土塊つちくれを手に入れて、大喜びだ。


「じゃあゆうちゃん、いっしょにねんど、しようぜ!」

 創司そうじも、妹と一緒に遊べて、嬉しそうだ。


 二人は、硬い板の上で、パン職人のように黙々と、油粘土をこね始める。


 数十分後……

 

「ハハウエ、みてみて! ぼくのはスーパーマンにごうだよ!」

「ゆーちゃん、おうまさーん! ぱっかぱっかー!」


 人と、馬の、土塊。


「そうだゆうちゃん、おにいちゃんのスーパーマンにごうを、ゆうちゃんのおうまさんにのせたら、ができるぞ!」

「じょーば? ゆーちゃんするするー! じょーば! じょーば! じょーば! じょーばーっ!」


 兄妹は、スーパーマン二号を、馬の上にまたがらせて、遊んだ。



・ー◎



 くる日。


 創司が起きてきた。


 母はとっくの前に起きていたようで、ソファでくつろいでいる。


「ハハウエ、おはよー」

「おはよう」


 創司が、眠たそうな目を擦りながら、いつもの硬い板の上を見ると……


 そこには、人の両脚のみがあった。


「あーっ! これは、ぼくのスーパーマンにごうの、あし!! だぁれ? こんなことしたの!」

 創司は、朝一番にしては大きな声で、叫ぶ。


 そして床には、馬の首も転がっていた。


「えっ? こっちには、ゆうちゃんのおうまさんの、くびもある。ゆうちゃんも、ひがいしゃ? てことは……ハハウエのしわざ!?」

 創司は、ソファに腰掛ける母を、きいっと、睨みつける。


「なに言ってるの。わたしがそんなことするわけないでしょう?」

 母は、ふふッと、苦笑いしながら、そう言った。


「そ、そっか。じゃあ、いったいだれがこんなことを??」

「ゆうちゃんよ。ほら、そっち」


 母が指差した先には……


「わー! ぱからっぱからっぱからっぱからっぱからっぱからっ! ひひーん! ! いけー!」

 

 どたどた、と、土塊のを片手に、疾走しっそうする夕の姿。 


「あーっ! それ、ぼくのスーパーマンにごう! おいゆうちゃん、どうしておにいちゃんのをこわすんだよ! それに、けんたくろーすって、なんだよ!」

 そう垂れながら創司は、ちょこまかと走る夕を、追い回す。


「あははは! いいでしょ? すーぱーまんと、おうまさん、いっしょにしたら、じょーば、しやすいの! ぱからっぱからっ! ひひーん! うおーっ!」

 夕は創司に、もっともらしい、言い訳をした。


 妹の柔軟な発想は、昨日と同じように、兄を感心させた。


——包括的な破壊も、良い。しかし時には、異質な要素同士が、弁証法的に止揚しようされるべきである。全ては常に、本質を保ちつつ、より高次元で合一し、より良き新しき世界が、訪れるのである。


   〈了〉

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土塊操りしデストルドー 加賀倉 創作【書く精】 @sousakukagakura

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