土塊操りしデストルドー

加賀倉 創作【書く精】

前編『創造的破壊』

「よいしょ、よいしょ」

 創司そうじは、硬い板の上で、油粘土をこねる。

 

 その様子を、母が、ソファで静かに見守る。


「よし、できたぁ!」

 作品が、出来上がったようだ。


「いけっ、スーパーマンいちごう! ジャンプ、キック、パーンチ!」


 創司は、その人型の土塊つちくれで一通り遊ぶと……


「あ! ちょっといってくる!」

 と、叫ぶ。 


「まぁ、そんな言い方はお下品よ?」

 母が、そうたしなめる。


「えー。ハハウエは、きびしいなぁ。んーとね、じゃあ……!」

「あら、素敵な表現ね。詩人の才能があるんじゃない?」

「わーい! しじん! しじん! しじん! しじんーっ! じゃ、うんこいってきまーす!」

「もう、またそんなこと言って。はい、早くおトイレ行ってらっしゃい」

 創司は、トイレへ向かった。


 板の上に立つ、スーパーマンいちごう。


 そこに、一つの視線。


 妹の、ゆうだ。


 夕は、兄の渾身こんしんの一作の前に駆け寄る。


 そしてそれを持ち上げて……


「えいっ!」


 硬い板に打ちつけ、ペシャンコにした。


 破壊、だ。


「こねこね! こねこね!」

 悪気もなく、楽しそうな夕。


 母は、夕を叱ることなく、じっと見守る。


「はい! おっけい!」

 と、夕は両手で、まんまるな土塊を掲げる。


 そこに、創司が戻ってきた。


「たっだいまーっ」

 スッキリしたのか、上機嫌。


 が、創司は、板の上を見て、目を、かっと見開く。


「あーっ! ぼくのスーパーマンいちごうが!!」


 そこに、人型の土塊は、もういない。


 創司の目は、そばにいた夕を捉え……


「ねぇこれ、ゆうちゃんがやった?」

 と、にらみつける。


「うん! ゆーちゃんこねこねした!」

 無邪気に答える、夕。


「はーっ!? なにしてくれんだよ! おにいちゃん、とってもがんばったんだぞ?」

「えー、でもぉ、どうせまたこねこねしてぇ、べつなのにするでしょ! おにーちゃんいっつもそう! だからゆーちゃんがこねこねしといてあげたの!」


 妹の純粋な言い分を聞いた兄は、唇を強く丸め、深くうなずく。


「そ、そうか。ゆうちゃん、おにいちゃんのために、してくれたんだな、ありがとう。スーパーマンいちごうはなくなっちゃたけど……いいよ、どっちみち、このあとをつくろうとおもってたし!」

 創司はそう言って、夕の頭を、ぽんぽん、と優しく叩いた。


——創造と破壊は、曼荼羅まんだらの如く輪廻りんねする。この広い宇宙の森羅万象は、一見、無尽蔵に湧いてくるようで、有限である。よって、一度壊さねば、新たに創ることは、かなわないのである。


〈後編『アウフヘーベン』に続く〉

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