安いマーガリン

白川津 中々

◾️

「今月も節約しないとねぇ」という妻の言葉に、俺は罪悪感を抱きながら生返事をした。


旅行資金を貯めるという名目で毎月夫婦の口座に金を入れる日々。普段は弁当と水筒を持って出社し、無駄なものは買わないようにして、ライフラインも控えめに使って互いに貯金額を増やしていく。誕生日プレゼントも妻は「美味しいケーキが食べたい」と言って千円もしないチェーン店のチーズケーキを買っただけだった。


そんな中で俺は昨晩、他の女と食事に行き2万払った。ついでに舌を絡ませて胸も揉んだ。最低である。



「もう少しで旅行できるね」


「……楽しみだねぇ」



後ろめたさを感じつつ、あの女といつ会えるか、旅行先で何を食べようかなどと考えていた。また、妻に女との関係が知れたらという不安もあったし、この生活を続けたいという希望もあった。真っ当な人間性ではないなと思いつつ俺は、焼いたパンを食べる。


いつか破滅するかもしれない。


そう思っても、安いマーガリンが染み込んだパンは美味かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

安いマーガリン 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ