僕らは死んでも本の虫
粟野蒼天
ページの擦れる音がした
目の前の霧が晴れるとそこには扉があり、周りには何もない世界が広がっていた。
「ここどこ……?」
とりあえず扉を開けてみよう。そうしよう。
ドアノブを捻り、扉を開ける。
「なにこれ……」
扉の向こうには見渡す限りの本棚があった。
宙に浮いている本棚やホグワーツの階段のようにひとりでに動く本棚などの不思議なものまであった。
これは夢なのだろうか?
私は適当に本棚から本を取り出した。
「あっ……マジックツリーハウスだ!」
小さい頃よく読んでいたな。
好きな冒険小説を見つけることができ、テンションが上がった。
「ふふ……この年になって読んでみるとまた違った面白さがあっていいな」
他の本はないのかな?
私は近くにあった本棚からこれまた本を取り出した。
小説に漫画、伝記に図鑑、自己顕示本までありとあらゆる本が本棚に入っていた。
不思議な場所だ。ここにいるといつまでも本を読むことができる。
本好きな私からしたら願ってもないことだ。
しばらく読み進めていると足音が聞こえてきた。
誰だろう。私以外にもここに人がいるのか?
私は読んでいた本を閉じ、足音のする方へと足を進めた。
ひとつまたひとつと本棚の角を曲がり足音の方へと歩み寄る。しばらく進んでいる開けた場所に出た。そこには崩れそうな程に積み上げられた本の山がいくつも置かれていた。そしてその本の山の中には”人”がいた。
人……人だ。
人がいることを確認できた私はどこか落ち着くことができた。
その人は髪がぼさぼさで白のティシャツにデニムと大学生のような風貌をしていて、熱心に本を読んでいた。腰を曲げて覗き込むように本を読んでるその姿にはどこか親近感を覚えた。
私はその光景をただじっと見つめていた。
どれくらいの時間が経ったんだろう。その人はパタリと本を閉じて床に置かれた本の山にその本を積み重ねた。
すると、その人は私に気が付いたの顔を上げ、私をじっと見つめてきた。
「えっとどうかしましたか?」
その声はかすれ気味だがとても聞き心地がよい声だった。
「あっあの、あなたは誰ですか? ここはどこなんですか?」
「相手に質問するときはまず自分から名乗るのが礼儀じゃないですか?」
確かに。失礼なことをしちゃった。
「私は
「自分は
「えっとここはどこなんですか?」
お互いに挨拶を交わし、私は聞きたいことを質問した。
「ここはあの世です。死後の世界です」
「死後の世界……?」
「正確には、まだ現世に未練のある人がここでその未練を無くしてから、現世に生まれ変わる為の場所です」
颯さんの口から出た言葉に私はたじろいだ。死後の世界? 生まれ変わる? 一体この人は何を行ってるんだ。
「どうやら、貴方は自分が死んだことを分かっていないようですね」
「死んだ? 私が……」
あれ? 思い出せない。ここに来るまでの記憶が切り取られたかのように思い出すことが出来ない。昨日の記憶は確かにあるのに。
「もしかすると貴方は自分が死んだことを認識する間もなく一瞬で死んだのかもしれません」
「そんな……」
颯さんは本を閉じて、また別の本を開いた。
静寂が響き渡る。私は我慢できずに集中している颯さんに質問をぶつけた。
「颯さんはなぜここにいるんですか?」
颯さんはそっとこっちを向くと、本を読みながら口を開いた。
「私はただ本を読み続けたい。そのために私は半世紀ほどここで本を読み漁っています」
「は、半世紀!?」
「この場所には毎日決まった時間に新しい本が届きます。その本たちはどれも作られたばかりのものです。次から次へと現れる本達は私の欲を満たしてくれます。なので私はここから出る気はないんです」
颯さんはページをめくる。一つまた一つとページが擦れる音がした。
僕らは死んでも本の虫 粟野蒼天 @tendarnma
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