父の秘密

長井景維子

一円玉の魂

さゆりは知っていた。今日も普段と変わらぬ様子で目玉焼きとトーストの朝ごはんを食べ、歯磨きをして、スーツを引っ掛けて何食わぬ顔で、

「行ってきます。」

と出て行った父が、一日中、コーヒーおかわり自由の喫茶店で新聞を読んで時間を潰していることを。会社にはとうに辞表を出しているのだろう。良いところまで出世したから、

もう上司という上司はいないから、人事部から通知が来るはずだが、父が会社に手を回して母に気付かれないようにしてあるのか。母は何も知らずに呑気に鼻歌なんか歌いながら、野良猫上がりのチビをマタタビであやしている。いつになったらお父さんはお母さんと私に本当のことを言うんだろう。


それと言うのも、さゆりは見てしまったのだ。父が深夜、書斎で辞表を書いているところを。父が不意にトイレに立ったところを、父に気付かれぬように書斎に入り、見てしまった。『辞表』と筆ペンで書かれた封筒を。


さゆりは慎重に物事を考えるたちだった。これは母には言ってはいけないんだろう、と思った。父の口から言われるまで、知らなかったふりをしていよう。父の秘密はこれだけではないことを、さゆりは知らない。


さゆりは自分の目玉焼きを少し苛立った様子で潰して、黄身と白身をグチャグチャに混ぜて口に運び、トーストは一枚残して、少し冷めた紅茶をカップから喉へ残らず流し込んだ。

「お母さん、行ってきます。」

とよく通る高い声で言うと、制服の前のパン屑を払って、学生鞄を肩に担いで、玄関から外に飛び出した。駅までまっすぐに歩く。父のいる喫茶店は多分ここだろう。朝は7時から開いていて、カプチーノが五百円で、おかわりは自由なので、コーヒー一杯で何時間でも粘れる。父が時間を潰すにはうってつけだ。

「覗いてみようかな?」

さゆりは父の姿を探そうかと思ったが、ここは武士の情けでその店を素通りした。もう電車の定期は取り上げられているだろうし、金銭の計算に細かい父がわざわざ電車賃を使って遠くへ行くとは考えにくい。多分、あの店で新聞読んでるんだろう。


父のそういう10円100円に細かいところを、母は嫌った。母は父のおかげで本部長夫人と呼ばれて、自尊心をくすぐられていたが、父が歯磨き粉のチューブをハサミで切って、内側にへばりついている歯磨き粉の残りを歯ブラシでこそげ取ったり、鼻を拭いたちり紙を丸めてポケットに入れておいて、乾いた頃にまた使ったりするのが、我慢ならなかった。父は咎められると、

「何言ってるんだ。こういうことの積み重ねで財産が残るんだ。」

と言い返していた。


ある時は父のマグカップの取っ手が取れて、母が捨てようとしていると、父がもったいないと言って、接着剤でくっつけて、しばらく使っていたが、ある日、熱いコーヒーを飲んでいる時、くっつけた取っ手が接着面から取れて、コーヒーをシャツの上からこぼし、火傷をしていた。それみたことか、と母は父の締り屋もほどほどにして欲しいと訴えた。


しかし、二人の夫婦仲が別段悪いというわけではないのだった。二人が寝室を共にした後の母の甘え方で、高校生のさゆりでさえ、妙な勘を働かせるのは容易なことだった。そして、そんな朝に限って、父は少し薄くなりかけた頭頂部にたっぷりとキツイ匂いのするポマードを塗って会社に出かけた。ポマードの匂いはさゆりは得意ではなかった。


父が辞表を書いていたのが、十日ほど前である。それからも父は普段通りに朝食を食べ、普段通りに背広を着て、会社へゆく風を装って?いた。出勤時に家から朝刊を持っていくのは父の習慣だった。父は完璧に演じている。それとも、辞表が受理されなかったのだろうか。いや、辞表を書いた後、気が変わって破って捨てたのだろうか。


妻の妙子は、今日は女子高の同窓会で訪問着を引っ張り出していた。同窓会といっても、有志が四、五人食事をするだけだ。気の置けない仲間だが、妙子はなで肩で華奢な着物写りの良い体つきであり、スーツやブラウスにスカートというより、今回は去年仕立てた訪問着に日の目を見させたかった。器用な方で、髪のセットはシニヨンのようにくるくると後ろでまとめて、自分でアップにした。ヘアピンで二、三箇所留めて、香水を親指につけて耳の後ろにぬりつけた。訪問着の着付けも自分で器用にやってのけ、タクシーを呼んで、会場となっている都内のレストランまで飛ばした。


「妙子!」

先についていた二人の仲間が声を掛けてきた。

「お着物ね、映えるわね。」

「ありがとう。馬子にも衣装ね。去年仕立てて、一度も袖通してなかったから、日の目を見せたくて。こんな機会でもないとね。」

妙子は長い言い訳をするように、着物を着て来たわけを話した。

「みんな、元気だった?」


イタリアンのコースによく冷えた白ワインだった。鯛のカルパッチョをフォークですくい取りながら、妙子は愛想よく話題に加わっていた。

「ご主人様は?」

「ええ、企画部長になって今年で四年よ。今はアメリカ出張が多いわ。」

「そうなのね。うちは接待ばかり。営業畑はチャラくてね。笑。」

「でも、みんな元気でいいわ。うちの主人、胆石があるのよ。」

「それは大変だわね。」


さゆりは学校が終わり、部活も茶道部だったので、今日は軽くお稽古に参加して、途中で抜けた。父のことが気になって仕方なかった。駅まで着くと、例の喫茶店に急ぎ、扉を開けた。中へ入って父を探すが、姿がない。いらっしゃい、とカウンター越しに声を掛けて来たマスターに、スマホで父の写真を見せ、

「すみません、この人最近来てませんか?」

と尋ねる。すると、

「ああ、いらしてますよ、毎日ここんとこ。朝、コーヒー飲んで、おやつにホットケーキ食べて、お昼はナポリタン、そしてまたコーヒー、って感じです。時間潰してるから、刑事さんかなと思ってましたが、あなたのお父さんなの?」

「ええ。今はどこにいるかわかりますか?」

「さあ、今日もいらしてたんだけど、3時のおやつにプリンアラモード食べてお帰りになりました。」


(好い気なもんだわ。お父さん、やっぱり仕事辞めたんだね。)


携帯で電話かけてみよう。

『お父さん?』

ーああ、さゆり。

『いま、どこ?』

ーえ?

『会社にいないことは見当がついてんの。私見ちゃったの、お父さんが辞表書いてるとこ。』

ーそうか。

『どういうこと?お父さん、何考えてるか知りたい。お母さんにはまだ秘密にしてあるの。』

ーじゃ、ゆかりは今どこにいるの?

『今、喫茶フローラを出て来たの。マスターがお父さん、今日も来ていたって教えてくれた。スマホの写真見せたの。』

ーじゃ、喫茶フローラに行くよ。話そう。


ゆかりは喫茶店に戻り、マスターに、

「見つかりました。これからここで会います。奥のテーブルいいですか?」

「どうぞどうぞ。」

「私はクリームソーダ。」

「はい。」

クリームソーダが運ばれて来て、ストローでアイスクリームを突っついて溶かしていると、父が入って来た。

「さゆり。よくここがわかったな。」

父は目を丸くして驚きを隠せない様子だったが、さゆりはいともなげに、

「だって一番近くで時間潰せる店ってここだと思ったの。くつろげるしね。」

氷水を持って現れたマスターに、

「じゃ、僕もクリームソーダを。」

と言った。


さゆりは黙ってストローを吸い上げ、父はそれを黙って見ていた。居心地の悪い二、三分の時間がそのまま流れた。父は口火を切った。


「会社は辞めた。さゆりの言う通りだよ。お母さんはまだ知らないんだ。黙っていてくれないか?」

「うん、いいよ。でも、どうして、そんな大事なこと秘密にするの?」

そこへ父のクリームソーダが運ばれて来た。父はマスターに軽く会釈して、マスターが遠くへ去るのを待ってから、小さな声でさゆりの耳元に口を近づけ、口元に手を添えて囁いた。

「もう働かなくて良くなったんだ。」

「え?どうして?」

「うん。驚かないで聞いてな。お母さんには内緒って約束できるか?」

「わかった、約束する。」

さゆりは話の続きが聴きたくて、母に内緒っていうのは不本意だったが秘密にすると約束してしまった。父は勿体つけたようにクリームソーダを一口吸って、さらに小さな声で、

「実は宝くじが当たったんだ。一等7億円だ。」

と、顔をさゆりに近づけて真面目な顔をして言った。

「キャ!」

さゆりは小さな叫び声をあげて、クリームソーダの入ったグラスを倒してしまった。

「おいおい!すみません、ちょっと。こぼしちゃったので、台拭きくれますか?」

マスターは父の声に反応して、タオルを持ってすぐに現れた。

「大丈夫ですか?」

父は、

「すみません。これ、お詫びです。」

と言うと、財布から三千円を出すと、マスターに渡した。

「お父さん!」

さゆりはいつになく大盤振る舞いの父に驚いた。

「……7億!」

聞こえるか聞こえないかの蚊の鳴くような声でつぶやいた。


喫茶店を後にすると、さゆりは熱に浮かされたように頭がぼーっとしてクラクラした。

「さゆり、先に帰りなさい。お父さん、夜まで時間潰すから。」

さゆりは、

「どこ行くの?」

「本屋でも行くかな。」

「そう。」

さゆりは、このまま帰ったら、母に内緒にし通す自信がなかった。

「私、ゲーセン行く。ちょっと気晴らし。お母さんに合わせる顔作る。」

「そうか。じゃ、これ、小遣い。」

父はまた財布から千円札を二枚出して渡してくれた。

「うん、遠慮なくもらっとく。」

ニカッと笑って手を出した。

「お母さんに知れたら、また贅沢なものばかりに浪費するからな。」

「そうかー。お母さん、すぐ使っちゃうもんね。」

「そうだよ、宝石とか、時計とか、すぐに億なんて使い切るよ。分不相応な贅沢品を欲しがるに決まってる。」

「困ったお母さんだね。」

「お父さんにはお父さんの計画があるんだ。家計は支え続けるよ。ただ、仕事してるふりはそろそろキツイな。」


その日、同窓会を終えた妙子は、タクシーを横付けにして帰宅した。家に着くなり、着物を脱いで、ティーシャツとデニムに着替えた。飼い猫のチビに餌をやり、台所へ行って、冷蔵庫を覗いて夕飯の準備に入った。


そこへさゆりが帰宅した。ゲームセンターでしこたま気分転換して、気持ちを入れ替えて、父との約束を守り、母に何食わぬ顔で、

「ただいま。お腹すいたー。」

と、言って二階へ上がって行った。


「お父さん、今度のボーナスでドラム式洗濯機が欲しいの。それから、もう一着着物作っていいかしら?」

妙子は夕食の酢豚を口に運びながら、父に向かって言った。父は黙って頷いた。

「そうそう、それから、さゆりは茶道部だから、振袖持っておいたほうが良くない?」

さゆりは驚いて、

「いいよいいよ、要らない。誰も持ってないもん。」

「そうなの?」

「うん。成人式もレンタルでいい。着物なんて宝の持ち腐れだよ、私はまだ。それより、大学、理工学部に行きたいって言ったら、困る?」

父は弾んだ声で、

「困るもんか、行きなさい、行きたいところへ。お金は大丈夫だから。」

妙子は、それを訊きながら、無言で酢豚の肉の塊を噛み締めていた。


父は幼い頃に両親が交通事故で亡くなって、里子に出されるまで、施設にいたと言う過去がある。里親は人一倍可愛がってくれたが、貧しかった。一円玉にも魂があるんだ、と幼い頃に養父に教わって育った。それ以来、お金に苦労して育った過去を忘れられない。


妙子は中小企業の社長令嬢で、それに加えてバブル期に本当に時代に翻弄された過去がある。お金に糸目をつけず、いまだにタクシーでdoor-to-doorでどこでも行く。そんな二人は大学時代にサークルで知り合い、付き合っている間にさゆりが出来て結婚したのだった。さゆりに対する愛情は二人とも深く、だからこそ、金遣いの荒い女房の妙子を父は黙って許した。辛抱することはなんでもなかった。小遣いは月に二万円。その小遣いでやりくりするのは訳のない事だった。


しかし、7億円というキャッシュが手に入り、仕事も辞めた。父は子供時代にひもじい思いをしていたので、子ども食堂を始めることにした。妙子には内緒だ。元の会社にいるふりをし続け、実は隣町に場所を借りて、少し改装して、キッチンと畳の部屋を作り、子ども食堂を始めた。そこへ来る子供は一食200円で栄養のある夕ご飯を食べられる。


7億のうち、大半は定期預金に入れた。残りで試しに株を運用した。妙子への生活費は、毎月、直に父が銀行に振り込んだ。妙子はそれを会社から振り込まれる給料と勘違いし続けた。通帳を記帳しない妙子だったので、振込もとが父本人だとは気づかなかった。


子ども食堂で、父は生き生きと働いた。ボランティアの主婦を雇い、さゆりも土曜日は手伝った。





さゆりは父に、そろそろ母に7億について話しても良いのかも知れないと思うと話した。さすがの母も父が子ども食堂を始めたことを理解するだろうと思った。父にそう話すと、父は、

「お母さんはお金に苦労したことがないんだ。だが、この子どもたちのことをよくよく話して理解させるよ。お母さんだって話せばわかるよな。そうだな。」

と、自分に言い聞かせるように言った。さゆりはこう言った。

「そうだよ。お母さんだってバカじゃないんだから、よく話せば理解してくれるよ。」


そして、次の日曜日、家族会議を開いた。まず、父は、自分が実は会社を辞めたこと、毎月の振込は会社からではなく、父が給料に見せかけて振り込んでいたことを話すと、妙子は目を丸くして驚いた。そして、子ども食堂を隣町で始めたことを話し、そこの子どもたちに栄養のある夕食を食べさせていると話すと、妙子はまたも無言だった。

「俺の生い立ちを知っているだろう。子供の時、ひもじい思いをしていたんだ。だから、この子たちの気持ちがよくわかる。美味しいものを二百円でお腹いっぱい食べて欲しいんだ。」

妙子は、じゃあ、私たちの生活はどうなるのか、と聞いて来た。

「君、贅沢をもうしないでくれるか、それを誓ってくれたら、全て話すよ。」

妙子は、

「ええ、贅沢どころじゃないわね。子供食堂じゃ、あんまり儲からないでしょ?慈善事業だもの。」

父は満を辞したように、

「いいか、よく聞け。実は宝くじが当たったんだ。7億円。一等だ。」

妙子は、信じられないと言う顔で今度はさゆりをみた。さゆりは、

「お母さん、私は知ってたの。お父さんから聞いてた。お父さんに口止めされてたの。子ども食堂も手伝ったりしてるの。」

「私だけ知らなかったんだ。」

さゆりは、

「ごめんね。でも、お母さんに7億円入ったって言ったら、きっと宝石とか腕時計とか、ブランドのバッグとか着物とか欲しがるでしょう?」

妙子は、心底恥ずかしかった。これは堪えた。

父は、

「お金はほとんど定期預金に入れた。少しは株を俺がやって増やそうと思ってる。もう、会社には戻らないんだから、一生涯この金で食っていくんだ。妙子は今までにも分不相応なものを自分で買って来ただろう。もう、それもやめてもらう。月にいくらあれば食うに困らないか、計算して、あとはさゆりの学費、それから、旅行ぐらいはしてもいいが、切り詰めて生活しよう。俺のやり方をわかって欲しい。」

妙子はしばらく考え込んでいたが、文句も言わずに素直に、

「わかった。タクシー乗り回したり、着物を作ったり、宝石もボーナスで買ってたけど、

もうしないわ。私も子ども食堂を手伝う。」

金遣いは荒いが、芯は素直な女なのだった。父は安堵して、

「君ならそう言ってくれると思った。よかったよ。」


妙子は、

「私、あなたが今まで何も言わないから、好き勝手したわ。必要でもないのに無駄遣いし続けた。悪かった。本当に。それで、考えてみたの。私、一つだけ欲しいものがあるの。ライトバンを買ってもいい?それで、私、子ども食堂の食材の買い出しする。今まではタクシーを使ってたけど、ライトバンでどこでも行ければいいから。」

父は、

「ライトバンか。そうか。必要かもしれないな。二人とも免許は持っているのに、車を買わなかったのは、俺が節約したんだ。でも、ライトバンなら、子ども食堂に必要か。」

妙子は、

「日本車の中古車でいいわ。一台欲しい。」

父は、

「わかった。」


ライトバンは中古の日産を一台買った。母は運転の練習をして、しばらくして慣れると、スーパーへ行き、安い食材を買って、ライトバンに乗せて子ども食堂に運んだ。そして、休む暇なく調理に入った。家で食べる夕飯は、子ども食堂の残りものをタッパーに詰めて持って帰った。子どもたちは百円玉を握りしめて毎晩やって来て、パクパク食べた。父と妙子は仲良く働き、そばで働くボランティアの主婦にも信頼は厚かった。


誰も、この夫婦に7億円のキャッシュが入った事実に気付かなかった。さゆりは、この宝くじの当たりで両親がライフスタイルを変え、前以上に仲良く暮らしていることを嬉しく思った。この幸せがあれば、宝石も豪華な別荘も、何も欲しくなかった。父は恵まれない子供達に奉仕することで、恵まれなかった幼い頃の記憶を浄化していた。


養父母を誘って、ハワイに家族全員で旅行することになり、養父母は大変喜んだ。ハワイへ向かう飛行機の中で、宝くじの当たりクジの話も養父母に話し、会社を辞めて、夫婦で子ども食堂を始めたことも話した。


「そうだ、一円玉には魂があるんだ。」

養父はそう言いながら、妙子の変化を心から喜んだ。

「妙子さん、ありがとう。」

養父母にお礼を言われて、妙子は、思わず涙ぐんだ。

「私、何にも知らない馬鹿だったんです。子ども食堂で勉強しています。私も人の役に立てるんだって、そんなことに感動する毎日です。」

父がこう言う。

「7億円っていうバックボーンがあるから、なんとか慈善事業も続くんだよ。今度の旅行も貯金があったからできたんだ。前の会社への未練は全くないよ。これでよかったんだ。」

さゆりは、

「おじいちゃん、おばあちゃん、次はどこ行きたい?毎年一回旅行したいね。元気でいてね。」


父は一人、一円玉の魂か、と呟いた。いい教えだったな、と養父母に感謝していたのだった。

「お父さん、僕が昔いた施設に少額だけど、寄付をしようと思ってるんだ。二百万円ぐらい。妙子、いいかい?」

妙子は、急なことで驚いたが、すぐに、

「いいことだと思うわ。あなたがお世話になった施設だもの。あなたがしたいようになさればいいわ。」

と言った。

養父母もさゆりも穏やかな顔をして聞いていた。


飛行機はホノルルに間も無く着陸する。定期預金の金利と株の運用。当座はそれで生活には困らない。高級車も別荘も何にもいらないと思える父と妙子だった。養父母も、父が慈善事業に打ち込み、それでも生活費に困らないでいられるのはありがたいと思った。さゆりはハワイから帰ったら、受験勉強が待っている。束の間の休日を思う存分祖父母と両親とともに楽しむつもりだ。


(完)

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