文句の多い料理店

J・バウアー

チャンチャン…

「おい、こんなんじゃ食べてもらえんぞ」

「前菜が漬物なんて、湿っぽいだろ」

「前菜ってダサいな。オードブルって言えよ」

「言葉変えても中身が同じじゃ意味ないだろ」

「スープが味噌汁?しかも具が揚げだけ?」

「コーンスープも具はパセリだけだろ」

「こんな硬いパン出すなよ。漬物と味噌汁だったら白飯だろ」

「硬いパンに文句つけるお前、総入れ歯だろ」

「やかましい。そんなのどうでもいいんだよ」

「麺はないのか?うまいラーメンくらい出さないと、見向きされなくなるぞ」

「このままでも十分おいしいですが…」

「あんたのことは、いいんだよ」

「おっ、店主言うねえ。てっきり向こう側と思っていたよ」

「メインが焼き魚なんて明治かよ。オリジナルの唐揚げくらい出せないのか?」

「サラダはどうした、サラダは?」

「そのキャベツの千切りが、そうなんだろ」

「塩まぶしただけの千切りがサラダ?独創的なドレッシングとかないのかよ?」

「それ以前に、山盛りキャベツだけというのが味気なさすぎ」

「成長期には肉だろ、にく!」

「野菜少ないぞ。栄養バランス大事だろ」

「デザートはどうした?」

「その冷凍みかんが、そうなんじゃない?」

「冷凍みかん、妙にうまいんだよね」

「でも、レストランのコース料理にはふさわしくないね」

「レストラン?どこにあるんだ?」

「ここだよ、ここっ!」

「ただの定食屋だろ」

「なら、どこにあるんだよ。ど・こ・に!?」

「50年前なら、いくらでもあったけどね」

「飲み物は?まさか、この麦茶か?」

「オレンジジュースはどうした?」

「オレンジジュースなんか古いだろ。すむーじーとか、ないのかよ」

「なんやそれ?」

「そんなのも知らんのか。遅れとるのう」

「なら、どんなものか説明できるのか?」

「それはだな…飲み物だ」

「説明になっとらんわ!」

「ビール出せ、ビール!!」

「子供にビールはないだろ。お前が飲みたいだけだろうが」

「あぁ、ビアガーデン、よかったなあ…」

「お前が懐かしんだところで、ビアガーデンは復活しねえよ」

「…十分堪能させてもらってますから…」

「だから、あんたのことは、いいんだよ」


 ここは地方の中核都市の都心部。

 急速に後期高齢者が増えて、都心部に住む子供は、この母親の子供一人だけ。中核都市の都心部なのに、限界集落と化している。

 ゆえに、レストランも含めた店舗は、次々と閉店。ビアガーデンどころか大手外食チェーンにも見放され、唯一残ったのが、この定食屋。

 この子供に何とかこの都市に残ってもらいたいので、ジジババたちが、あれこれと店に文句をつけてくる。

 結局、ジジババたちのつまらない努力もむなしく、この子供は、進学を理由に都会へと出ていってしまった。

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文句の多い料理店 J・バウアー @hamza_woodin

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