第二話 山の中でもないのに吊り橋効果って!?

 こういう時、何て言うんだっけ?


「詰んだ……にょ」


「そう、それっ!」

 思わずそう言った俺を舘野が、ぎろり、と睨んだ。


「ご、ごめん……なさい…」



 俺は、まあ、男だしぃ……イザとなれば部屋の奥ででも良いが……

 舘野の挙動が、だん、だん、不審になってゆく。

「あうぅ⁉」

 とか、

「はうぅ⁉」

 とか、

 声が漏れてくる。


 どうするよ?

 どうしたら良い?


 俺はもう一度立ちあがって体育準備室の重い鉄扉にアタックした。

 無駄に小気味良い音が響いたが……外から反応が返ってくる事は無かった。

 俺がまた、がっくり、と元の場所に坐ると舘野が、ちらっ、と俺を見た。


「た、タダ……ち…」


「な、ナニ?……何か妙案が?」

「にゃ!……にゃんでも、にゃいにょ……おほぉう⁉」


 や、ヤバそう……です!

 俺はできるだけ、さり気なく、立ちあがって体育準備室の奥の方を物色し始めた。

 高いトコロに天窓があった。とても、そこから抜け出すのは無理そうだ。しかし、そこからの明かりがまだ日が暮れては居なかったコトを知らせてくれた(だから、ナンだ、という話だが)。

 その時足元で、がん、と金属音がした。

 見ると金属製のバケツだった。

 俺はそれを拾いあげて舘野のトコロに戻った。


「こ、これ……お、奥の方で……スレば……わ、判らない…と、思う…」


「な、なに……し、しし、しろ、とぅ?」

 あからさまに挙動不審だ。

 しかも、頬を染めて、ぷいっ、と視線を逸らした。

 そういう可愛いのなので止めて貰って良いですかね。


 しかし、彼女のもあまり長く続かなかった。

 いきなり立ちあがった舘野が俺の手からバケツをひったくって体育準備室の奥に走っていった。


「こ、こっち……み、見ないでにょ!」

「も、勿論ですぅ!」

「み、みみ、耳も塞いでにょ!」

「り、了解ですぅ!」

「…………そ、それから…だ、誰にも……い、言わないでにょ!」

「判っております、ですぅ!」


 俺は即座に目を瞑って両耳を手で塞いだ。

 だから、時間の経過は判らない。しかし、生憎なコトに音は聞こえた。

 うん、これは持って行こう。俺は固く心に誓ったのだった。

 しかし、

「た、タダち~……」

 俺を呼ぶおひいさまのか細い声が聞こえた。

 ここで返事をしたら、聞こえていたコトがバレるのでは?

「タダち~、聞こえてるんでしょ~」

「な、なな、ナンでしょう?」

「すけべぇ!?」

 いや、その確認、いま必要ですかっ!?

「…………てぃ、ティシュ……持ってない?」

 ああ、こっち、がホントの用事か(笑)。

「あ、あるよ……」

「こっち、見ないで持ってきて…」

 な、難儀なミッションをご所望だ(笑)。


 それから俺は目を瞑ったまま手探りで進み、差しだしたポケットティシュを彼女がひったくり、俺が元の場所に戻ってから……

 時間経過は記憶にございません。


 俺の近く(笑)に戻った舘野が、ぼそ、と言った。


「おしっこ、見られたにょ……」

 み、見てませんんっ⁉

「おしっこ、聞かれたにょ……」

 き、聞いてませんんんっ⁉

「も、お嫁にイケないにょ……」

 だ、だだ、大丈夫……だと、愚考致しますぅ⁉


 それから、また暫く経って舘野が言った。


「全部なかったコトにするから…………ちゅー、してっ♡」

「は、はいぃ!?」

「信じないかもだけど…あーし、ちゅー、したコトないにょ!」


 えっと、それ、いま、必要な情報でしょうか?


 ヤバいっ!?

 これって、『吊り橋効果』とか『恋の吊り橋理路』とか言うヤツだ。

 心拍数が爆アガリした時、目の前にいる異性に恋しているとするヤツだ。

 舘野が目を瞑って唇を突きだして俺に迫ってくる。


「お、お、落ち着け……それ、ただの勘違いだからっ!?」


 しかし、舘野の両手が俺の肩を掴み顔が近づいてくる。

 ヤバいっ!?

 ……と思ったその時、


 ガシャンーっ!?


 大きな音が響き重い鉄扉が開いたのだった。

育美いくみちゃん、居る~?」

「なんで只野ただのが居るんだ?」

 初めの声が媛乃木、次が川俣だった。

 俺は、いや、俺たちは、生還を果たしたのだった。



          【つづく かも】

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ちょ待てっ!? ……それは勘違い、ただの勘違いだからっ!? なつめx2(なつめバツに) @natume_x2

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