第4話:小さな勇者の盾

防具を着る。ポーチを肩から掛ける。棒は......左の腰にセット。最後に防水、防寒の為のマントを羽織る。

「さて、行くか」

不安は残りつつも、準備を整えて城の扉を開く。

「ご武運をお祈りしております」

「ああ、行ってくる」

城の関係者達に見送られながら外に出ると、朝早くにもかかわらずメインの通りに民衆が集まっていた。仕事の準備も放り出して、皆が新たな勇者の門出を見に来たようだ。

声を掛けられる度に手を振りながら街の外へ進んでいく。

「「「「ゆうしゃさま!」」」」

人混みの奥、積み上げた木箱の上でなんとか大人たちの隙間からこちらの様子を見ようとしている4人の子供達を見つけた。子供達はそれぞれ勇者、戦士、魔法使い、僧侶の格好をしている。英雄譚に憧れた子供達の勇者ごっこだろう。

「君たちも勇者?」

子供達に近付き、話しかける。

「うん!ぼくたちはこの町を守るゆうしゃパーティー!」

そう言いながら勇者担当の少年が木の棒を掲げ、鍋のふたを構える。お父様の像を真似たポーズは、子供ながらもさまになっていた。

「昨日は八百屋のおばちゃんの手伝いクエストしたんだぞ!」

戦士担当の少年は自信満々に小さな力こぶを作って見せる。

「そ、それより、ゆうしゃさまに言わなくていいの?」

僧侶担当の少女が勇者担当の少年の裏から声を掛ける。

「ほら、早くしないとゆうしゃさま行っちゃうよ!」

魔法使い担当の少女も勇者担当の少年に声を掛ける。

「あの、ゆうしゃさま。ゆうしゃさまは、たて持ってないみたいだからこれあげる!」

そう言って少年は、左手に持っていた木製の鍋の蓋を手渡してくる。

「イッセイさまもこの国を出る時は、きのぼうとなべのふただったんだって。だから、ぼくのゆうしゃのたて、あげる!」

差し出された古びた鍋の蓋には、塗料を使って勇者の紋章や本物の盾にあるような繋ぎ目などが描かれていた。塗料は幾度となくクエストをこなして来たのだろうか、掠れて薄くなってしまっている。

「大切な物だろう?」

「本物より弱いから、次の町までしか使えないと思うけど......」

まだ渡すのを少し迷っているような、そんな表情だ。

「それならこれは借りて行こう。帰ってきたら君に返そう」

そう言って私は少年から小さな勇者の盾を受け取る。少年は木の棒と鍋の蓋を持った貧相な勇者に目を輝かせた。

「ゆうしゃさま、がんばってね!ぼくももっとつよくなるから!」

受け取った小さな勇者の盾を装備し、少年と別れた。




街を抜ける頃には日も高く上がってきていた。地図を開き、行き先を確認する。向かうのはこの町から平野を西に進んだ先の”魔法使いの森”だ。徒歩で行くなら3日も歩けばたどり着く距離だ。道中で小遣い稼ぎにスライムを狩りながら進むことにする。

「馬でも借りてくるべきだったか......」

道路は馬車が通れる程度には整備されているが、3日も野宿しながら歩くという経験が無い。西側に向かって進むと、遠く地平線まで黄金色に色付き始めた穀倉地帯が広がっている。この国の重要な食料源だ。所々に馬車が止められていて、その近くの畑では農夫が草むしりや、畑を荒らすスライムの討伐をしている。

日が傾くまで同じ風景の中を歩き続けると、少し開けた広場が見える。この辺りはスライム以外のモンスターはほとんど確認されていないので、開けた場所さえあればどこでも野宿ができる。恐らくここも商隊や旅人のための野宿スペースなのだろう。荷物を下ろして、火打石で火を起こす。少し苦戦したが、無事に焚き火をすることができた。ポーチから取り出したパンを軽く温めてかじる。素朴な味だが美味しい。慣れればスープくらいなら作れるのだろうが、既に体力は残っていなかった。




気が付けば食べかけのパンを手に握ったまま朝になっていた。どうやら疲労で眠ってしまったらしい。寝袋すら使わなかったからか、全身が痛い。体を動かすのも辛かったが、早く街に辿り着いて宿屋で寝たい一心で西へと進み続ける。2日目から移動距離が短くなったからか、予定より1日遅れの4日目には地平線から巨大な森が姿を現した。所々に煙突のようなものも見える。残る体力を振り絞り、ニセイは魔法使いの森へ向かった。

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