ワニの涙 4人台本 (男1女1不問2)
サイ
第1話
金田 剛(かねだ つよし)…男。20歳。明るくリーダー的存在。高校時代はサッカー部。
比叡 千紘(ひえい ちひろ)…不問。19歳。ドジ。動物の写真を撮るのが好き。
山﨑 榛名(やまさき はるな)…女。20歳。丁寧な口調で優しいお姉さん。ジブリが好き。
霧島 優希(きりしま ゆうき)…不問。19歳。感情の起伏が少ない。FPSゲームと和菓子が好き。
ー山中。ひとけのないバス停。遠くに古ぼけた旅館が見える。
霧島:これから行くところって、パワースポットなんでしたっけ。
金田:そうそう。なんかご利益があるらしい。
霧島:具体的には、どんな効果が?
金田:えぇと…なんだっけな。忘れちゃった!
霧島:えぇ…。
山﨑:具体的な効果はわからないけど、この先に祠があって、そこが人気スポットになっているそうですよ。
比叡:人気スポット…
山﨑:そうそう!苔むした感じと、森の木々の隙間から差し込んでくる光がすごく神秘的に見えて、来た人はみんな写真を撮っているらしいんです!
金田:おお、普段物静かな
比叡:しかも今日は平日ですから、そのスポットをじっくり見られるってわけですねっ!
山﨑:そうなんです…!はぁ、想像しただけでため息が…!
金田:はいはい山﨑さん、絶景スポットは逃げないからね。とりあえず撮影するかどうかは置いといて、下見だけしに行って、その後旅館に荷物を置こうか。
比叡:わかりました、じゃあとりあえず出発ですね!
霧島:ふう…、山﨑さんが言っていた祠って、この道ですか。
金田:事前の下調べによると、祠までは けもの道ができているそうだから、おそらくこれであってるんじゃないかな。
比叡:うっ…撮影機材や荷物を背負ったままこの道歩くのって、結構大変ですね…。
金田:まぁ、今は下見だから。ほんとの撮影のときはもう少し荷物も軽くなるはずだよ。
霧島:さっきも「下見」って言ってましたけど、綺麗に見える時間って限られていたりするんですか。
山﨑:そうなんです。方角的に、朝日が差し込んでくる時が一番綺麗だと聞きましたので、今日は場所だけ確認して一泊し、明朝撮影する、と言うのが今回の計画です。
比叡:朝日ですか…じゃあうんと早起きしないとダメってわけですね…。
金田:そうだぞ、今日は早く食べて寝ること。夜更かしして寝坊したら置いていくからな?
比叡:ひえっ…が、頑張ります…。
霧島:…あ、あれですか、山﨑さん。
山﨑:うーんと…土台と、墓石のような四角い石…あ、これです!間違いない…!
金田:おお、これかー!…なるほど、時代を感じるな。今の状態でも十分絵になるけど…これは朝日がさすまでお預けしといたほうがいいか…?
比叡:そ、そうですね…ベストショットは明日に取っておきましょう…。
霧島:なるほど、あのあたりから朝日が差し込んでくるんですね。すごい、自然の天窓って感じですね。
金田:おお、ロマンチックなこと言うねぇ。じゃあこのアングルで撮れば、いい感じに写るかな。
比叡:わっすごい、アングルまで計画しておくんですね…。これ、星空が見えても綺麗なんでしょうか…?
金田:こら。朝日とともに撮影するんだから、夜更かしは厳禁だぞ。ベストショットは明日に取っておくんだろ?
比叡:あっ…すみませんでした…!
霧島:…山﨑さん?
山﨑:…えっ?何?
霧島:…いえ、じっと祠の土台を見つめていたので。
山﨑:あぁ…何か書いてあるなぁ、って思って。
霧島:…ほんとだ。でも、潰れていてよく見えないですね。
金田:なんだろうな?旅館の人だったら、その辺詳しいかもしれないし、聞いてみるか?
山﨑:そうですね、写真におさめる上で、この祠の背景とか…いろんなお話聞いておきたいです。
金田:よし。じゃあ旅館に向かうかー!
ー旅館にて。夕食後。
金田:悪いな、急にカメラの調子が悪くなっちゃって、祠の調査全部任せちゃったな。
霧島:いえ、それは全然…。
比叡:カメラ、大丈夫そうですか?
山﨑:うーん、ちょっと調子悪そうなんですよね…。でもこんなこともあろうかと、予備もいくつか用意してあるから、明日は問題なく撮影できると思いますよ。
比叡:そうなんですね!よかった…!
金田:祠のこと、何か聞けたか?
比叡:あっそうでした!えっと、祠についてなんですけど…。
ーアラーム音が鳴る(誰かがアラームを口ずさんでください)
霧島:…え、アラーム?
金田:誰だー?はりきりまくってるやつは!いくらなんでも早すぎるぞー!
比叡:あ、あれ?すみません、時間間違えて設定しちゃってました…!あれ?あれ…?
霧島:…目覚まし時計、持ってきたんだ?
比叡:そう、この時計じゃないと起きられなくって…ちょっとかさばるけど、しょうがないかなって。
金田:そんな心配しなくても、時間になったら叩き起こしてやるぞ?
比叡:先輩…!
金田:ああ、起きるまで叩いてやるよ。青タンできても知らないけどな!
比叡:ひえっ
金田:はは、冗談だよ!
比叡:な、なんだ、冗談ですか…。
山﨑:…大変です金田くん、もうこんな時間です。そろそろ寝ないと…。
金田:おお、やべ!まぁ話は明日でも大丈夫だしな!今日はゆっくり休もう!おやすみ!
3人:おやすみなさい。
ー早朝
霧島:うーん…そろそろ起きないと…でも眠い…。
霧島:…あれ?金田さん、もう起きてたんですか。
金田:ん?うん…まぁな…。
霧島:さすがですね…よし、撮影行く準備しなきゃ…。
金田:あぁ、あれね、あれなんだけどさ…。やっぱ…明日にしない?
霧島:…え?どうしてですか?
金田:いや…カメラ!カメラが、やっぱあのカメラがいいんだよね!
霧島:でも、なおらないんでしょう?だったら今日だろうが明日だろうが関係なくないですか?
金田:えっと…その…。
山﨑:おはようございますー。
霧島:あ、山﨑さん。おはようございます。
比叡:あわわ、すみません遅くなっちゃいました!おはようございます!
山﨑:大丈夫、全然遅くないですよ。早く行きましょう!
比叡:は、はい!
霧島:金田さんも、早く行きますよ。
金田:あ、あぁ…。
山﨑:こ、これは…?!
霧島:ど、どうしたんですか、山﨑さん。
山﨑:こ、これを見て…。
比叡:祠が…壊れてますね…。
霧島:うわ…一体誰がこんな…まだ日が昇っていないし、外からやってきた人だとは考えにくいですよね。
山﨑:かといって、昨日も今日も平日、旅館に泊まっていたのは私たちだけだったはずです。
金田:あ…あのさ…。
霧島:…?金田さん、何か心当たりが?
金田:いや…そのー…、祠壊しちゃったの…俺かもしんない…。
山﨑:えっ?!
比叡:ど、どうしてそんな。
金田:ち、ちがうんだよ!ちょっと、ほんのちょっと触っただけなんだよ!
山﨑:そもそも、いつ壊したんですか?
金田:いやその…星空と祠って…ちょっと気になっちゃってさ。自分で次の日にとっておくとか言っておきながら我慢できなかったし、壊しちゃったしで、言い出しにくくて…。
山﨑:金田くん…。
霧島:…金田さん、ほんとにこの祠壊しちゃったんですか?だとしたら…相当やばいですよ。
金田:な、何が…?
山﨑:そういえば昨日、祠について話を聞いたんですよね?
霧島:はい。旅館のオーナーさんにお話を聞きました。
霧島:ここでは昔、大きなヤモリが山をうろついていたそうです。ちょうど…ワニぐらいのサイズの。それを山の守り神、山を守ると書いて「山守(ヤモリ)」と呼んでいたそうです。
霧島:しかしあんまり大きく、付近の集落の作物を根こそぎ食べてしまうので、討伐しようという話になったそうです。
山﨑:神様だと、崇めていたのに…?
霧島:はい。ですので、退治した後、その亡骸を埋め、祠でその魂が暴れないように封じていたそうです。
霧島:数十年前に一度、ふざけ半分で祠を倒してしまった人がいたらしいんですけど…。
霧島:その人は狂ってしまい、家族や親戚、友だちを祠があった場所に呼び寄せて、食べてしまったそうです。
金田:た、食べる?!
霧島:なんでも、ヤモリの魂が人間に乗り移ってしまったんじゃないか、と…。
金田:そ、そんな…。
霧島:その人は下山することなく、山奥の神社で一生を過ごすことになったそうですが…。
金田:嫌だ!なんとかしてくれよ!
山﨑:なんとかって言われても…。
金田:ほんとにちょっと!ちょっと、こう、ピッと触っただけなんだって!祠に刻まれてる文字をもう一度よく見たくてさぁ!
霧島:そう言って騙して食べてしまおうと…?
金田:思ってない!ほんとなんだって!!
山﨑:お話に出てた神社って…?
金田:嫌だ!一生山の中なんて!誰か助けてくれよ!
比叡:あ…あのっ…。
霧島:どうしたんですか?そんな泣きそうな顔して…。
比叡:実は…金田さんより前に、祠を見に行っちゃったんです。そうしたら…
比叡:祠が…既に壊れていたんです…!
金田:え、それどういうこと…?
比叡:たしか、夜中の2時くらいだったと思います、ふと目が覚めて、やっぱり星空見てみたいなぁ、って思って。こっそり旅館を抜け出して、祠の方へ行ったんです。着いたときには、もう倒れていて…大変だ!って思って、慌てて元に戻そうとしたんです…。
山﨑:つまり、一度戻そうとしたから壊れやすくなっていたんですね。
霧島:なるほど…?金田さんは何時ごろ祠へ?
金田:3時前ぐらいかな。鉢合わせてはいないけど、話の通りなら、辻褄が合う気がする。
山﨑:でもそれって、本当なんですか?
霧島:それ、とは…。
山﨑:既に壊れていたって話です。最初に来たときは確かに、そんな簡単に倒れるような感じではなかったです。ですから、倒れたのはその後でしょう。
比叡:そ、そうですね…。
霧島:その後から2時までの間に、祠に行った人がいるかどうか、ってことですよね…。その間はぐっすり寝ていて誰が出入りしたかは全然わかんなかったんですけど…。山﨑さんは?
山﨑:私もずっと寝ていたんです。
金田:比叡、目が覚めたときは全員寝ていたんだよな…?
比叡:はい、おそらく…。
山﨑:それよりも前となれば、ほぼずっと一緒にいたじゃないですか。一瞬別れたのは入浴のときですけど、私と金田くんはほぼ同時に大浴場から出てきましたから、出入り口の前で話していたじゃないですか。
金田:そ、そうだな…。
霧島:…じゃあ、千紘が嘘を…?
比叡:ち、違いますっ!行ったときにはすでに壊れていたんです!自分で壊したんじゃありませんっ!!
山﨑:嘘だなんて…そんなこと言わないであげてください。
霧島:山﨑さん…。
山﨑:もう既に取り憑かれているのだとしたら…、記憶が改ざんされているのかもしれませんし。
比叡:や、山﨑さん!なんてこと言うんですか?!違います!本当に!壊れていたんですっ!!
金田:だったら…
比叡:……?
金田:なんで俺が疑われているとき、すぐにそれを言わなかったんだよ。
比叡:そ、それは…
金田:あのまま山に こもりっきりになったところを食うつもりだったんだろ?!だから何も言わなかった!!
比叡:ま、待ってください!その後ちゃんと金田さんのせいじゃないって話したじゃないですか!
金田:こうやって情報や、みんなの信頼関係をかき乱して、混乱しているところをまとめて、とか。
比叡:ありえませんっ!こじつけにもほどがあります!!
金田:じゃあ他に誰がいるって言うんだよ!!俺も寝ていた、山﨑も霧島も寝ていた!地元の人が壊すのか?何のために?!地元の人は祠の重要性をわかっていたはずだろ?!
比叡:祠…そうだ優希、一緒に祠の話を聞いたもんね?祠の重要性なら2人とも既に知っていたもん!
霧島:それは…そうだけど…。
山﨑:故意にしたんじゃない可能性だってありますよね。言い方はよくないですけど…ドジなところあるじゃないですか。うっかり壊しちゃったんじゃないですか。
比叡:なんで…なんでみんなしてこじつけようとするんですか…おかしいですよ!こんなのおかしい…!!
山﨑:霧島さん、お話に出てきた神社まで、案内してください。
霧島:わ、わかりました…。
比叡:優希っ!!お願いやめて!!狂ってなんかない!!信じて!!
金田:早く行くぞ!!
比叡:嫌だ!!嫌だぁぁっ!!!!誰かぁ!!!!!!
ー山奥の神社にて
金田:…神主さん、すごい形相だったな。
霧島:大事な祠ですからね…。
山﨑:当たり前です、壊しちゃったんですから。
金田:猿ぐつわまではめられて、連れて行かれたな。
山﨑:(静かにすすり泣く)
金田:…これで、良かったんだよな。
山﨑:ぐすっ…当たり前です…当たり前ですけど…何もあそこまでしなくても…。
金田:…もう帰ろう。そして今日のことは忘れよう。
霧島:…わかりました。
ー旅館にて
山﨑:荷物って、これで全部ですよね。
金田:ああ、忘れ物はなさそうだし、大丈夫だと思う。
山﨑:…なんだか、どっと疲れが出てきちゃいました。
霧島:山﨑さん、荷物持ちますよ。
山﨑:でも、それだと…。
霧島:とりあえずバス停に荷物を運んでしまいましょう。バスに乗ってしまえば荷物なんて気になりませんし。
霧島:金田さん、これ一緒に運んでくれますか。
金田:ああ、そうだな。山﨑はちょっと休憩しておけよ。
山﨑:…わかりました。では、お願いしますね。
霧島:…金田さん。
金田:ん?どうしたんだ?
霧島:この山のヤモリは、ワニみたいだったらしいです。
金田:山にワニなんていないけどな。
霧島:仮にそれがワニだったとして。
霧島:ワニは獲物を食べるとき、涙を流すそうです。
金田:…え?
霧島(m):私と金田さんは、バスを待つことなく歩いて下山しました。
ワニの涙 4人台本 (男1女1不問2) サイ @tailed-tit
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