後日談・ナイスミドルはジェントルマン

 特別な気持ちは無かったのに、弱いところを見てしまうとどうにも気に掛かってしまう。

 今日は元気、今日は空元気、今日は無表情…彼女は最近浮き沈みが激しい。「大丈夫?」と尋ねても「大丈夫です」と返ってくる。

 踏み込んで聞けないのは、僕が上司だから、そして男だから。そして彼女の情緒不安定の原因が、恋愛に関することだから。

 下手にアドバイスも出来ないし、ハラスメントで責められても困る。

 心配しているのに、芯には伝わってないのがもどかしい。


 彼女が元カレに請求書を突き付けたあの日、彼女は言葉は軽快だったが表情が強張っていた。その次の日も、次の日も。

 話し掛ければ笑顔を見せるも、どこか白々しいというか瞳がうつろでこちらが不安になるほどだった。


 慰謝料というか弁償のお金が振り込まれたと嬉々として発表した後、彼女はプスンと電源が落ちたように表情を失くした。でも数秒後にはまた明るくなって、「呑み明かします」と勇んで帰って行った。

 メンタルが壊れてしまったのでは、僕は職権を行使して彼女のアパートの住所を控えておくことにした。


 そして案の定、翌日彼女は倒れた。

 早めの発見はナイスだったと思うが、遅ければ重篤な事態になっていたかもしれない。


 彼女はもう復活してバリバリ働いているが、僕のことはただの上司としか見てないみたいだ。

 小さくてアットホームな会社だからって、元カレとのいざこざに積極的に関わる上司は当たり前ではない。

 しっかりしているつもりでも不安定な彼女、僕は個人的に支えてあげたいと思っている。

 いつ気付くかな、僕の気持ちに。こういう部分も、鈍感だったりするのだろうか。


「部長、お昼は外ですか?」

「うん…一緒にランチするかい?」

「はい、お供します!」


 さり気なく、世間話のついでに、流れに乗って。

 ぜひ、前向きに考えてもらえないかな…僕はいつもよりもシャッキリ背筋を伸ばして、

「行こうか」

とオフィスを出た。




おわり

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わかりあえない、わかれたい 茜琉ぴーたん @akane_seiyaku

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