第3話 森での異変

 森の少し深いところ、木々の隙間から漏れる光が使い慣れた剣を照らす。僕は深呼吸し、魔物の気配を探りながら、一歩ずつ静かに進んだ。


 僕は前世で見た剣を模倣して鍛錬した。そしてある程度、再現できるようになってから人との模擬戦をしようと試みた。


 相手が自分よりも強くて殺す事はなくても『殺してしまったら』と思うと体が動かなかった。物事にのだから。


 僕は7歳の時から森に入って動物を仕留められるように鍛錬した。動物を殺めるのは普段から見ているせいか思っていたほど負担に感じなかった。

 それまでは小説とかで主人公が鍛えるように感覚を研ぎ澄ませるように剣に打ち込んだ。これは今でも続いている。


 去年、15歳になって動物よりも力が強い魔物相手にも戦えるようになった。もっぱら、今の僕の修行相手だ。


 この日は少しおかしかった。動物の気配が少ない――そんな気がする。その分、魔物の多くが獲物を探しにきているのか魔物の遭遇率が高い。


 今も魔力で変異した10匹の狼、魔狼の群れに囲まれている。その中心には他より1mほどデカい体高2mを超えるリーダーの魔狼。血のように赤く輝く瞳がじっとこちらを見据えている。


 こういう事は森のずっと奥に行くと起こる。だから、少し深いといってもここまで浅いところに出てくるのはおかしかった。


 剣を正眼に構えて動きを待つ。僕の剣は受けの剣。動くと隙が生まれる。その瞬間を逃さずに剣を動かす。


――ウオオォォン!!!


 リーダーの大気が震えるような合図に正面以外の魔狼が僕に襲いかかる。すぐさま右に転がり込むと同時に僕の喉笛を喰らおうと飛びかかる右の魔狼の足を斬りつける。


 その勢いのままに目の前にある魔狼の頭を剣で強く叩きつけ、下がった頭を足で踏む。――まず一匹。


 膠着状態、仲間を殺された魔狼は冷静に僕を取り囲む。ある意味、賢くなかったら僕を殺せるだろう。仲間の犠牲を減らすために考え、工夫し、連携してくる。


 その考える時間が僕にとって息を整え、観察する余裕を与える。


 リーダーはまだその場を一歩も動かない。ただ、低く唸るだけで他の魔狼たちが一斉に動き出す。まるで見透かされているようにほとんど時間をかけずに次の行動を起こした。冷や汗が背中を伝う。


 今度は時間差をつけて襲いかかってくる。はじめに飛び込んできた後ろの魔狼を半身になって躱すとその尻尾を掴んで口を開けて飛び込んできた魔狼の方に飛ばす。


 ぶつけた魔狼の様子を確認する余裕はない。ぶつかり合っている間に次の魔狼の射線上に剣を置き、引き裂きながら地を走って爪を振るう魔狼の顎に蹴りを放つ。――二匹目


 それを見越したように大きく口を開いた魔狼の口に、腰に括り付けたナイフを投げ入れ、喉に突き刺さす。――三匹目


 あたりに血の匂いが立ち込めて魔狼が唾液を垂らして興奮してだんだんと動きが雑になる。


 今ちょうど蹴り上げた魔狼とナイフを喉に刺された魔狼の陰にリーダーの視線から隠れた僕はナイフを一本ずつリーダーと蹴り上げた魔狼の方に投げつけた。


 蹴り上げた魔狼の頭に刺さり、倒れ、リーダーを庇うように足を切りつけた魔狼が身を呈し、首に刺さる。――五匹目


 ふと、リーダーの唸り声が変わった。低く空気が震えるように響くそれに、他の魔狼も低く唸り、威嚇する。今、僕は魔狼にとって、獲物から敵に変わった。


 冷や汗が頬を伝う。おかしい、魔狼にとって僕は割に合わないと理解したはずなのに肌を刺す殺気は強さを増した。


 ここまでもかなりギリギリなのにここからが本当の闘いの始まりだ。いつになっても怖い。気を抜くと膝が震えて剣筋がブレそうになる。それでも僕は負けるわけにはいかない。


 本当に嫌になる。今まで部下を鍛えるためか高みの見物をしていたリーダーが前に出て威圧感が増し、空気が重くなる。さらに僕の四方を残りの魔狼が囲んだ。


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悲劇の物語を希望に変える――前世で絶望した少年の贖罪 コウノトリ @hishutoria

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