第4話 あー、この祠壊しちゃったの?

 村は壊滅していた。


 家屋は潰され、血の匂いが辺りに漂っていた。だが、村人たちは喰われてしまったのか死体は見えなかった。


 僕と鏑木の前には巨大な怪物がいた。


「ギャアアアアア」


 そいつは盛のついたメス猫の発する赤ん坊のような鳴き声を出した。身体はヤマアラシの針のような体毛で覆われており、四肢のようなものはなくイモムシのようにも見える。頭部には大きな円形の口が開いていて三本の触覚のようなものが伸びている。よく見ると先に目玉のようなものがあった。


 ファイアーボールを連発して突っ込んでいった鏑木がまず喰われた。


 あの体毛の前では彼の異能も無力だった。


 僕は狂ったように化け物に向かって走り出した。恐怖だとかそんなものは通り越えて、本能が逃げ出すべき選択を放棄し、身体をを突き動かしていた。



「があっ……」


 都合の良い奇跡なんてものはこの異界でも起こらないようだった。


 そう。僕はあっけなく怪物に喰われた。


 形状はイモムシなのになんで鋭い歯が並んでるんだよ……。丸呑みでいいじゃんか……。


 肉や骨を砕かれ、怪物に咀嚼される。


 意識があったのはほんの一瞬なのだろうけど、意識が消えるまで、それはとても長く続いたように感じられた。


 


 意識が消えるまで?


 どうして僕は怪物に喰われた自分の意識のことを客観的に思い出している?


 ぼんやりとしていた頭がはっきりとしてきた。ナニカに覆われていた視界もはっきりと。


「祠?」


 しゃがみ込んでいた僕の目の前には、崩れ落ち粉々になった祠があった。この光景は前に見た。夢だったのか?


「あー、この祠壊しちゃったの?」 


 振り返ると喰われたはずの鏑木が火のついたタバコを咥えて僕を見下ろしていた。生きてたのか? いや、何だその服装? 鏑木は戦争映画で観たことのあるような旧日本軍の軍服を着ていた。この表情は僕が初めて彼にあったときの表情そのもの。直感があの笑顔を見せてくれた鏑木とは、本人なのだけど別人であると告げてくる。


 僕の驚いた表情を見た鏑木は、タバコを地面に捨てるとその軍靴でふみ消した。


「なるほど……。初めてじゃない。ふむ、そういうことか」


「な、何て?」


 鏑木はしゃがんで僕と目線を合わせた。


「やり直しってことさ」


 

 やり直し? ああ、これは夢なんかじゃない。現実だ。


 僕はこのクソッタレな世界を繰り返すらしい……。


 そのことだけが、僕が自然と理解できた唯一のことだった。



 了

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ほこらこわしたんか 卯月二一 @uduki21uduki

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