第一章 エピローグ
「行ったな……」
静かになった異世界ゲートの前に佇む3人。
黒川紅蓮、城ヶ崎紫音、斎藤茜はずっとゲートを見つめている。
「さあ俺の最後の仕事だ。」
紅蓮は、爆薬をゲートに仕掛け、距離を取る。
「お前らも全員離れろ。巻き込まれるぞ。」
ゲート前で呆然と立ち尽くす茜と紫音に問いかけるが反応がない。
「おい!さっさと下がれ!死にてぇのか?」
怒鳴られやっと反応した二人は顔に生気がない。
無理もないだろう、茜は彼方の事を弟のように可愛がり、紫音に限っては生まれたときからずっと一緒に生きてきた。
もう会えないと思うと、立ち尽くす気持ちも理解できる。
「あいつの事信じてるなら、さっさと下がって来い。」
「……すみません……」
二人共ゲートから距離を取り紅蓮の元に来る。
「あの……紅蓮さん……」
紫音が話しかけてくる。
「なんだ?」
「その爆弾の起爆スイッチ……私に押させてもらえませんか?」
彼方との最後の繋がりはゲートのみ。
だからこそ自分で押したいのだろう。
「分かった。この爆弾は時限式だ。スイッチを押して5秒後に爆破する。」
「分かりました。」
紫音の手に起爆スイッチを置くと、紅蓮は少し離れた。
最後のお別れくらいは、自分のタイミングがいいだろう。
そう思い、いつ押すかは紫音に任せた。
「茜さんも紅蓮さんのとこまで離れてていいですよ。」
「……うん、紫音ちゃん、大丈夫?押せる?」
「はい……どうしても私が押したいんです……」
「わかったわ、貴方のタイミングで押したらいいからね。」
そう言って茜も離れていく。
紫音の頭の中には、彼方と過ごした日々が走馬灯のように流れている。
このゲートを爆破すれば、もう、二度と会うことは出来ない。
そう思うと、スイッチを押す手が震えてきた。
しかし何時までも紅蓮らを待たせるわけにいかない。
「おい、茜……だったか?あいつがスイッチを押すまでもう少し心の整理が必要だろう。その間に二度とゲートは作れないように資料は全て燃やしておけ。」
「そうですね、こんな悲劇を繰り返さない為にも、資料は燃やしておきます。」
そう言って茜は研究所の奥へと歩いて行った。
時間が掛かっているからか、鈴木が入り口から紅蓮のとこまで歩いてくる。
「おい、どうした。予定では爆破し二度とゲートは使えないようにするのではなかったのか?」
「ああ、そのつもりだ。ただ起爆スイッチはアイツに渡してある。」
紫音を指差すと、鈴木も理解したようだ。
「そうか……最後の別れは自分でしたい……ということか。」
「まあそういうことだ。アイツの心が整理できるまで待ってやってくれ」
「分かった。ただ外の連中が研究所内に入ろうと押し掛けてきている。私の部下が抑えてはいるがいつまでもつか……」
外にいる者達は二度とこんな悲劇が起きないようゲートを壊したいそうで、中に入ろうとしてきているとのことだ。
10分が経っただろうか。
紅蓮は紫音に問いかける。
「そろそろいいか?外の連中を抑えているのも時間の問題らしい。」
「……っ!すみません。覚悟は決まりました。」
「そうか。ならいい。」
また紫音から離れた所で見守る。
カチッ
紫音が遂に起爆スイッチを押した。
後5秒で爆破する。
5……4……3……2……1……
頭の中でカウントダウンをしていると、いきなり紫音がゲートに向かって駆け出した。
「おい!何を考えている!!!」
呼び掛けるが紫音は止まらない。
呼び掛けも虚しく、爆破が始まった。
ゲートの各所に設置した爆弾は轟音をたて、次々と爆発していく。
ゲートの黒い深淵は歪みだし、消えかかるその瞬間。
「やっぱり私、彼方と離れたくない!!私も!着いていく!!!」
そんな言葉を発しながら、壊れかけのゲートへと飛び込んだ。
その後全ての爆弾は起爆し、ゲートは跡形もなくなり破片となる。
「おいおい……マジかよ……行きやがったぞ異世界に……」
呆気にとられる紅蓮だが、鈴木も同じように口を開けて固まっていた。
目を瞑り黒い深淵に飛び込んだ僕が、次に目を開けた時には見たこともない光景が広がっていた。
ビル1つない風景、空には月が2つ。
空は紫がかっており、お世辞にも綺麗な風景とは言えない。
辺りを見渡しても、異様な形の木にゴツゴツした岩肌が目立つ崖。
右手にはしっかりと紅蓮さんからもらったレーザーライフルが握られている。
魔物がいきなり現れそうな風景に腰を抜かし、座り込んで呆然としていると、前からアレンさんが近付いて来た。
アレンさんが僕の前に手を差し出し、話しかけてくる。
「ようこそ!ボクらの世界、アルカディアへ!!」
「ちなみにここは魔族領だからこんな風景だけど、この世界は美しい世界なのよ、誤解しないでね」
レイさんから補足されたが、忘れていた。
この異世界ゲートは魔族領に繋がっていたのだった。
ここから平和な未来を掴む為の旅が始まる。
そう意気込んで僕は呟いた。
「初めまして異世界アルカディア、そして待っていろ世界樹。必ず見つけてだしてやる。」
もしもあの日に戻れたのなら プリン伯爵 @prin_hakusyaku
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