絵の無い絵日記
人物。
絵にっきちょう、1枚目
『外の気温は36℃、熱中症に気をつけましょう。』
聞き慣れたセリフを流している店内のテレビに背を向け、坂本鈴は花の植えられた植木鉢を店の中に取り込んだ。
鈴はフラワーショップに1年ほど務めて今月で20歳。ようやく仕事にも慣れてきてこうして店番も頼まれていた。
今週は人が少なく、ほぼ暇を持て余していたためテレビをぼーっと見つめていることが多かった。
「そうだ、絵日記帳...たしかここに...あった!」
ふふと、昨日の絵日記帳のことを思い出し、かばんから絵日記帳を取り出す。レジ近くの椅子に座り、表紙をめくる。
{きょうから、絵にっきを、かきます!}
{きょうは、せんせいと、おべんきょうをしました!でも、せんせいがおもしろくて、ちゃんとべんきょうができませんでした!}
崩れた文字を眺めながら、懐かしい気持ちに浸る。
{6がつ2にち きょうは、せんせいとあそんで、手に水たまもようをつけたりしました!せんせいはすごく、たのしそうでした!}
文以外の空いているスペースには赤いクレヨンで水玉模様が散りばめられていた。
「手に水玉模様...?クレヨンで手に落書きしたりしたんだっけ?」
幼い自分の手に、クレヨンで落書きをしている姿を想像すると思わず微笑んでしまう。
{6がつ3にち きょうはえんそく!せんせいはおべんとうをおとしちゃったので、わたしのすいとうのお水をあげました!}
鈴の頭にはあまり記憶には無かったが、この先生はかなりおっちょこちょいだったのだろう。楽しそうに小学生たちとお弁当を囲む姿がすぐに思い浮かんだ。
そういえば、この表紙には『絵にっきちょう』と書いてあるのだが絵は描いていなかった。でもまだ小さかった頃だ、絵日記と日記帳がごっちゃになっていたのだろう。そう考えていると「すみませーん!」と店の外から呼び出しの声が聞こえ、慌てて日記帳をかばんにしまって店の外に出た。
絵の無い絵日記 人物。 @WARAETNSSUN
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