第22話 機関車さんの『熱』
機関車さんは走れない。
なぜなら両足が死んだからだ。
時は少し遡る。
あの日は地元から少し離れた都会にて、フラッグシップバトルが行われていた。
地元の参加メンバーは僕と『機関車』さんの二人だけ。
結果は双方ともに惨敗したのだが、おかげでもう一つの大会へ参加できそうだ。
パパ主催の『パパ杯』である。ストレート負けを喫した場合のみ、開催時間に間に合う計算なのだ。
(もちろん、そのために負けたんだぜ!)
そちらへ赴くため、ドライブがてら車を走らせていたのだが。車内での雑談で、僕は機関車さんの『熱さ』を知った。
まだ二十台も半ばだというのに、奥さんや娘さんを支える一家の大黒柱であること。
庭付きの一軒家をその若さで購入したこと。
前職のブラック残業格闘談。
一方で趣味のワンピカにも全力入魂していること。
恐るべし、バイタリティの塊のような人だ。
「俺はまだまだ若いからな! 遊べるうちにとことん遊ぶで!」
シュポシュポ活気に遊ぶ様は、まさに蒸気機関車のようで。
僕は思う。
僕の目指すべきはこの人であると。
何歳になってもたくさん遊んで。
けれど大切な家族は養って。
まさに理想像の体現だ。
僕は勝手にも機関車さんへ憧れを抱いていた。彼の熱にほだされたのだ。
そうこうしているうちに地元へ帰省し、パパ杯へエントリー。
この日の大会はいつもと様子が違っていた。
パパがマンネリ解消のため、普段とは異なる催しを企画してくれたのだ。
「耐久スクワットで最後まで立っていられた人に、豪華景品プレゼント!」
鬼畜である。
いくら景品が豪華であろうと、なに一つワンピカに関係ない過酷な行事に、皆参加しあぐねていた。
あのスクワットマスター黒色師匠でさえたじろぐなか、一人の男が声を上げる。
「俺、やるで!!」
機関車さんだ。
まだまだ若いと自認する彼は、意気揚々とステージへ立った。
ならば不祥この僕、参加しないわけにはいかないのである。
なぜなら僕は機関車さんに憧れているのだから!!
「では、よーいスタート!!」
結果はフラシ同様、惨敗であった。
僕も機関車さんも100回近く粘ったが、《奴》には到底敵わなかった。
現役男子高校生バレー部所属、『
現役選手に大人が敵うはずもなく、おっさん連中はコテンパンにやられた。
どうにか追随した小学生カタクリ君と赤ゾロ君も、半泣き状態に陥っていた。
「もうやめてあげて!!!!」
ビッグママンの悲痛な叫びが店内にこだまする。
だが奴は動じない。
200回を超えても、なお真顔でシュコシュコシュコシュコ。
汗一つ流さず、スクワットをし続ける大西洋君。
小学生が泣いてもお構いなしだ。
華麗なる屈伸運動に皆は恐怖し、スクワットマスターは「後継者見つけたわ」ととても嬉しそうだった。
余談だが、もう二度と耐久スクワットが行われることはなかった。どうせ大西洋君が勝つからだ。
偉大なる勝者の陰で、敗者たちは喘いでいた。
痛い。痛い。痛い!
あまりにも痛すぎる。
両膝がガクガク震えて、言うことを聞いてくれない。
僕も機関車さんも、産まれたてのバンビちゃんのようにのたうち回り絶句していた。
「俺、もう若くないんやわ」
悲しい告白だった。
同意見だ。
機関車さんの両足は死んだ。
彼はもう走れない。
憧れは霧散し、後にはおっさん二人の溜まりに溜まった乳酸だけが残っていた。
僕は機関車さんの『熱さ』を知った。それは勘違いだったようだ。
彼は後日、過剰なスクワットのせいで高熱を発症し、しばらく寝込んだときく。
おっさんは、どこまでいってもしょせんおっさんである。
筋肉痛は一週間続いた。
よく聞け。あれは地獄だ。
憧れる人は選んだ方がいい。
マジで。
次回『ブルブルチンチンVSドミネーター。いざそそり勃つ』に続く。
ONE PIECEカード海遊録 海の字 @Umino777
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