第二話――二千年後へ

樹候災害が発生してより三日と22時間が経過、今尚巨大樹は根を伸ばし至る所に葉を散らしている状況にあり、各国対応を絶えず行っているが依然としてこれと言った解決策は浮かんでいない。




 場所は東京より暫し離れたホテルにて、無事何でも屋一行は合流を果たしていた。当初よていしていた通りダミは泳いで日本へと向かい無事到着、カミラは飛行機を操縦し東京へと墜落同然に到着した。


「それで貴様。我ら全員を集めた理由はなんだ?」


 全員が集合して早々に鋭い目付きを持ってカミラが黎明を刺すようにして目を向ける。


「まぁ今回ばかしは御巫山戯無しで率直に――あと2時間で世界いっぺん滅びます」


「え?!」

「でしょうねぇ…」

「予想通りじゃなぁ」

「容易に想像の出来る事だな」

「皆さん冷静すぎません?!」


 黎明れいめいから放たれた突然の告白にフレックのみが戸惑いを見せ、他の者たちはさも当然かの様な反応をした。

 この状況、誰もが見てもそう長い時間持つとは考えずとも残り時間が僅か2時間などとは思いもしない。フレックはこの中でも若い上に新人社員、驚くのも仕方のない事柄だ。


「つっても完全に人類が滅ぶってぇ訳でも無いもんでコレが…まずわたしどもは生き残りますよそりゃ?次に件の信仰宗教。他には“運び屋”と“銀星”は確実に生き残るでしょう」


 件の信仰宗教とはミカエラ・ウル・ミカエルを信仰する宗教集団であるのは当然とし、運び屋並び脆星とは理より大きく外れた存在である。

 同様、社神黎明も理外の存在に当て嵌るが故、此処に集った何でも屋の面々を生き残させることが可能である。


「なるほど…それで僕たちはどう助かるんですか?」

「生も死も片道切符、未来への切符もこれまた片道切符ってぇことで行きましょうや――」




「千八百年後、私が目を覚ますのはその時になるでしょう」


 白いテラスより身を顕にし、高い声ながらも温かみの籠った声が町全体に響き渡る。

 二千年近くにも及ぶ眠り――それは常人にとって果てしない程の時間であり、二度と会うことの叶わない時間。

 されどこの時、信者らは自らが信仰しうる女神が我が目に写せる事にただ感謝し、祈り、崇め、静寂を持って応えとした。


「私が眠りに付くことに不安を覚える者も居るでしょう。ですが安心してください…私が眠りに付こうとも、あなた方は私によって祝福されています。ですからどうか――女神である私を忘れなきように」


「「「御身が意思に」」」


 その言葉を最後に、彼女の身体は硝子の様に透き通る美しい水晶へと包まれた。




 強烈な吹雪が襲う氷の大地、南極。此処も同様に巨大樹が生えており、そんな根元付近に一人の男が氷に穴を開け釣りをしていた。


「…釣れねぇ。この樹の所為かぁ?呆れるねぇ」


 荒れた白い髪に白い無性髭を生やしたパッと見30代程の男は、もはや樹候災害の影響を受け氷の下に生きる魚の大半が死んだ事に気付かずに釣りを続けていた。


「釣れねぇっしょ?ここ」

「…」


 音もなく、空気の揺らぎすら起こさずに突如として男の隣にもう一人の男が現れた。背丈は180程だろうか、深緑の髪がよく目立つ。


「運び屋かぁ。喧嘩でもよこしに来たのかぁ?買う金はねえぞぉ」

「俺は運び屋で売り物屋じゃねぇから」


 小さな鈴の着いた耳飾りをチャラチャラお揺らす男は、霧の様に掴みどころのない雰囲気を纏っている。


「なぁ銀星のおっさん、アンタこの先どうなるか分かってんだろ?」

「分からねぇ馬鹿はいねえだろぉ」

「んじゃ助けてくれよ。アンタなら人一人次いでで生かすこと出来んだろ?この話は互いに不利益にはならねぇ。違ぇか?」

「…どうするかねぇ」


 この時代、誰もが知るという訳では無いにしろ運び屋と銀星という呼び名はそれなりに知れ渡っている。

 とは言え異能の内容までは知れ渡ること無く、ソレを知る者は同業か政治関連の人間もしくは、自身らとと同じ理外の存在のみ。

 そして当然の事ながら銀星は運び屋の異能を知っており、その内容はあまりにも魅力的だ。だからなのか銀星は顎に手を当てて唸りながら悩む素振りを見せる。


 そうして熟考した結果――


「まぁいいかぁ。裏切ろうとしたら殺すからなぁ」


 銀星は利益の方が大きいと捉え運び屋の手を取ることにしながらも、釘を刺す様に思い力の籠った言葉を投げかける。


「はは、銀星に手出すとか俺がする訳ねぇだろ。俺はあの道化野郎でも売女でもねぇんだからよ」

「そうかぁ、じゃぁ決まりだぁ」


 遠い氷の大地にて、理外の存在二人が手を組んだ。これはこの先の未来において容易に近郊を崩すであろう。




「ぶぇっくしッ!ぶぇっくしッ!」

「汚いのぉ…悪い噂でもしとるんじゃないのか?」


 誰も居なくなった大型モールの中に、黎明の大きなくしゃみが響き渡る。

 現在何でも屋一行は未来へと向かう為に此処で各々が必要とする道具や長持ちのする保存食を大きなバックパックへと詰めていた。

 本来であれば東京全域は軍隊によって接近が出来ないが、そこは黎明の異能を行使して侵入している。


「僕たちの行く未来、どんな感じなんでしょね」

「そうねぇ、ディストピア状態なんじゃないかしら?」

「うわぁ嫌だな〜」


 若くもこのハイテクの環境に慣れてしまっているフレックは、この先どの様な不便が増えるかを考えて愚痴を零してしまう。

 その後も他愛もない話をしながらも物色を続けるが、矢張り樹候災害の侵攻は止まらず時折地震が起きている。そしてその間隔は徐々に狭まってきている。


「黎明。準備が出来たぞ。時間的にもまずい」

「そのようで」


 カミラにそう言われ黎明が各々に目を見やるとしっかりと準備は整った様で、何時でも行ける表情をしていた。

 それを確認した黎明は全員に対して輪になるように手を繋ぐようにと指示を出し、面々は指示通りに手を繋ぎ円を作る。


「さぁさぁ今から始めますは一世一代の大手品!一度目を開ければお天道様も驚き腰を抜かす始末!では皆様方参りましょう――二千年後へ」


 その恒常を最後に、何でも屋一行は目を覆うほどの閃光に包まれ姿を消した。





――次章―光幸――

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ソレが描く物語 時川 夏目 @namidabukuro

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