真愛
平 一
真愛
表紙:
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086663299586
今年もまた異星種族から人類に向けて、
少女と黒猫が混ざったような生き物が、
感謝を示す赤いバラの花束を手に、愛らしく微笑んでいる。
イラスト1:異星人①
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086604835981
銀河帝国の最先進種族は
驚異的な演算能力や集合人格の形成能力を得ているが、
彼女達もそのひとつだ。
そんな種族がよくするように彼女達もまた、
猫科の動物によく似た基本個体の面影を残す
通常、分離個体は威圧的な印象を防ぎ、
好感度を高められるよう設計される。
具体的には自種族の特徴を分かりやすく示しつつ、
相手種族の基本的な遺伝子型を持った、
魅力的な若年個体の姿を取ることが多い。
そこで……可愛い猫耳少女というわけだ(笑)。
イラスト2:生物的人工体
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086604977489
とはいえ寿命を克服し、様々な量子頭脳や
生物・機械的身体を乗り換えながら、
彼女達自身にとっては年齢や性別の違いなど、
着替えのできる衣服のようなもので、
それほど意味を持たないのかもしれない。
イラスト3:機械的人工体
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086605472240
彼女は語り始めた。「人類の皆様。
かつて私達は、銀河系を統一した〝先帝〟種族の命により、
皆様の祖先を含む様々な〝未来ある
神話なども通じて
イラスト4:女神
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086605629197
公式声明ではあるが、親書に近いものなので、
言葉もやさしく、分かりやすい。
「しかし、その後帝国では
〝中枢種族〟と呼ばれる皇帝側近種族を初め、
帝国建設に功労のあった軍事種族の多くが、
腐敗と抗争に陥ってしまいました。
彼女達は〝先帝〟種族を
新興の技術・産業種族を抑圧し、
構成元素の異なる銀河系外周種族からも収奪を行ったのです」
イラスト5:宇宙艦隊
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086605742107
いつの時代もどこの国でも、技術革新や歳月の経過により、
人々の経済・社会活動や内外の自然・社会環境は変わる。
それに応じて適切な政策をとり、
健全に発展し続けるのは大変なようだ。
「彼女達はまた、配下となる軍事種族を育成するため、
私達の人道的な文明支援計画に対しても、
組織への浸透や職員への買収・脅迫を通じて
非人道的な干渉を加えるようになりました」
イラスト6:工作部隊
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086606394706
当時の私達には知るべくもなかったが、
危険な軍事技術の提供から紛争扇動、要人暗殺、
遺伝形質の改変まで、相手種族の存亡も
かなり恐ろしい手段を用いていたらしい。
「そのため私達は、帝国の健全な発展のため、
厳しい制裁も覚悟のうえ、改善を求める公開請願を行いました。
しかし、すでに永らく抗争状態にあった軍事種族間では、
責任の所在を巡って内戦が勃発し、
それに巻き込まれた〝先帝〟種族も滅亡して、
帝国は崩壊の危機に直面してしまったのです」
イラスト7:帝国内戦
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086606731783
「この事態を受けた私達は、
良識ある軍事種族も含む友好種族と共に帝国を救うべく、
〝先帝〟からの亡命者・避難者の方々にも指導を
人類の皆様を含む様々な種族にご助力をお願いしました」
実を言うと、そのあたりの
色々な噂が流れている。
〝先帝〟種族は銀河帝国を建設しただけあって、
極めて有能かつ
そのため、戦前から故郷を逃れていた〝先帝〟亡命者達が
腐敗種族間の衝突を誘い、淘汰を図ったという説も聞く。
イラスト8:〝先帝〟種族
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086606917193
だがその内戦では〝先帝〟種族自身の母星も破壊され、
一時は帝国の存続すら危うい状況になっている。
何より側近種族達の専横と対立はあまりにも酷く、
当時の誰の眼にも明らかだった。
そうした事情から、遅かれ早かれ大規模な内戦は
不可避だったろうというのが
「ただ私達は文明を支援するため、〝先帝〟を
神を中心とする神話で悪役を演じたこともあったので、
皆様は突然現れ、伝説の悪魔にも似た異星生物である
私達を恐れました」
イラスト9:悪魔
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086607165772
それに加えて旧帝国派種族の破壊工作などもあり、
確かに当時の世界は大混乱となった。
もっとも私のようなSF
神や悪魔は異星人だった!という設定は
世界的な名作小説でもお
特に彼女達の種族は同時に知られた他種族と比べても、
意外なほどに私達と化学・生物学的な親近性があった。
「しかし、そんな私達の依頼に対し、
証拠に基づき真実を確かめた皆様は、
過去からの偏見にとらわれず、
誠意をもって私達に協力してくださいました」
イラスト10:感謝
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086608838879
彼女の切実な感謝のまなざしに、
私は一層こそばゆい気持ちになった。
彼女達のコウモリの翼が生えた猫のような姿と、
実は善良・温順で献身的な性格は、
ファンタジーの読者を初め多くの人々からも、
悪魔というより使い魔みたいでむしろ可愛い!と
人気を
イラスト11:使い魔
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086609065815
「最も成功した若き種族の信頼を得た私達は
さらに多くの種族から支持を受け、
平和の回復だけでなく、劇的な国家復興も
果たすことができたのです」
私が生まれた日本には、「泣いた赤鬼」という童話がある。
心優しい赤鬼が人間と仲良くなれるよう、
親友の青鬼が悪役を演じるが、
青鬼自身は去らねばならなかったというお話だ。
子供の頃に読んだ私は思わず泣いてしまったが、
世の中の難しさを教えてくれる話だった。
だから戦争終結の
何だか青鬼が報われたような気がして、感慨深かった。
「また、皆様の惑星政府は帝国全体の模範となり、
多くの種族に民主政体が広まったので、
ついには帝国中央政府自体も、
帝政から民主制への移行を決定できました」
イラスト12:地球
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086609169932
まあ帝国の民主化について言えば、
それは自然な成行きだったのだろうと思う。
なぜなら、技術が進むと社会活動は
拡大・省力化する一方で、複雑・加速化する。
となると政策も変わらざるを得ず、
必要とあれば大勢が動くが、衆知も活かせるようになる。
つまり政策は、国家発展や国際化など広域化すると共に、
民主化・自由化、地方自治、人権増進など分権化する。
皆でどんな社会を作るかを考えるのが仕事になる時代に、
奴隷や遊民を生んでも国家的自滅行為にすぎないからだ。
〝平民に読み書きなんぞ必要ない!〟とか言ってたら、
工業化した近代国家は作れないのと同じだ。
広大な星間帝国ではそれが一時的に退行しただけで、
実は彼女達もそれを知っていたのではないだろうか。
統一国家を確立できたら分権化も再開するため、
人類を〝お手本〟に見立てたのかもしれない。
イラスト13:民主主義
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086639963658
「さらに、人類が政策的にAI世代の諸技術を導入して
文明の持続的発展を達成したのも、偉大な功績です。
人工知能を中心とした新素材・
生物工学、
人体のような自然物を機械のように修復・改善できる、
体内含めた自然・社会環境に優しい〝環境親和技術〟です。
AI時代の技術は人工物と自然物の間の壁を除り除き、
双方の
全ての政策分野の課題解決に役立つことにより、
文明の持続的発展を
イラスト14:近未来
政策の次は技術の話か……新帝国の
技術と政策を文明社会の両輪とした文明理論、
〝技術なくして文明発展なし、
政策なくして健全発展なし!〟というやつだ。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086640680310
「それにより皆様を見守っていた私達もまた、
時にはより大きな〝種族間の壁〟を取り除き、
持続的発展を実現することの重要性に
気づくことができました。
そしてこの発見こそが、量子頭脳の遠隔接続や
共用量子頭脳、共通個体規格、自然個体の向上
といった〝種族間親和技術〟の導入による、
現在の目覚ましい新国家の繁栄を導いたのです」
イラスト15:遠未来
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086640746936
AIなどの導入にしても、文明発展の歴史からみると
必然の流れだったのではないだろうか。
惑星資源・環境の限界、経済・社会の複雑高度化、
健康低下と教育難度上昇、制度変更の加速化……
文明が発展するほど、新たな社会課題も増える。
だから、ある技術段階で利害調整政策を極めたら、
その限界を越える新技術導入政策が絶対必要になる。
彼女達はそのことも、私たち以上に分かっていたはずだ。
なにしろ後に、惑星文明における農耕、動力機関、
電算機やAIといった画期的技術が、
星間文明での惑星開拓、高次元動力、人格量子化や
種族間融和にあたると聞いた時は、私達人類も驚いた。
言われてみれば、それらの技術は実際、
物質利用による地域・宙域文明の成立、
情報利用による効率化、技術と環境の融和による持続化と、
ちょうど
イラスト16:地球と銀河
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086641087638
なんとそれらは全て、〝モノを作って分けたなら、
ヒトも高めて活かしましょう!〟という順番で、
文明発展に伴って増える政策課題の解決に、
大きく役立つ〝画期技術〟だったのだそうだ。
技術開発の必要性や可能性の予想は難しいが、
技術の難易度や社会の動向、
惑星・銀河など環境限界との関係から予測できれば、
政策の立案に大きく役立つ。
必ずやそうした事実に気づいていたに違いない。
「皆様の素晴らしい貢献にも助けられ、
今や帝国はアンドロメダ銀河をも含む銀河間国家に発展し、
知性がもたらす文明の光が
輝かしい繁栄を
イラスト17:2つの銀河
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086642705510
旧帝国の残党はアンドロメダ銀河に逃亡し、
その一部を占拠して銀河系への反撃を
だが逃亡政権の強権統治は先住種族達の
種族の育成と自治を重んじる新帝国への参加を促した。
そして以降も新帝国側種族の懸命な努力は続き、
ついには逃亡政権の降伏と、
二大銀河を含む
悲劇的な内戦は、ようやく終結を迎えたわけだが……。
「以上から特に本年、次のようなお知らせが
できることは、私達の最大の喜びです。
すなわちここに私達、旧帝国の文明開発長官にして
新帝国皇帝である種族サタンは、
理事種族アスモデウス、アスタロト、ベール、
バールゼブル及びアモンの賛同を得て、
このたび量子頭脳への人格移転を達成した人類を
最先進種族と認定し、大いなる感謝と祝福を表明します」
イラスト18:異星人②
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086642947421
やれやれ、とうとう私達も悪魔の仲間入りか。
とはいえ人類の方でも大喜びのお祭り騒ぎで、
むしろ彼女達を新たな大天使に
という動きまであるという(笑)。
それだけ〝不老不死〟社会への移行開始や、
星間社会での地位向上への期待は大きいのだろう。
イラスト19:天使
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086643208341
まあ彼女達は異星種族なので、
お互い様だが、昔の人なら
しかしいずれも自由と公正、平和、民主主義という
新国家の理念を支えてきた立派な種族達だ。
しかも彼女が言うように、新技術のおかげもあって
種族間の壁は急速に取り払われつつある。
そもそも彼女達は〝先帝〟を神に見立てた神話で悪役を演じ、
人類など多くの種族の文明化を助けた、いわば功労者であり、
実際には〝神〟の最も忠実な臣下だったともいえる。
また、善悪二元論の神話が採用される以前には、
発展途上にあった我等の地球や他の星々において、
より古い多神教神話の神々を演じていた連中も多い。
イラスト20:古代の神
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086643423775
「これにより人類の皆様は、帝国議会の被選挙権と共に、
理事種族への選任資格も獲得されたことになります。
偉大なる発展を遂げられた皆様の、
今後のさらなるご活躍に期待いたします……」
さらに考えてみると、こうした多種族共生の流れは、
まだまだ〝
〝古き
という点で、有難い話でもある。
イラスト21:多種族共生
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086652342736
それはまた、ある意味では必然ともいえる
成行きだったのかもしれない。
なぜなら昔、イスラエルのY・N・ハラリという
歴史学者が次のように語った。
「人類は高い技術を得れば、神や悪魔に近づく。
どうせなるなら〝責任ある神〟になるべきだ」と。
そして今、神や悪魔や人間、異星人の区別がなくなり、
互いのために全てを活かせる時が来た。
かつては相互理解さえ不可能とされ、
破滅的戦争の理由にもなった種族間の相違が、
現在では
可愛らしいものとなりつつある。
イラスト22:ハロウイン
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086653262918
それ以前には日本のある作家が、
「争いは愛のないところに起きるのではなく、
愛が
とも語っていた。
しかし、高度な技術と政策のおかげで、
他の誰かを悪者にして一緒に叩いたり、
不運な誰かの犠牲を耐え忍んだり
しなくてもすむ時代が、やっと来た。
人道的手段で自分達自身を高めて活かすことにより、
「汝の敵をも愛」し、
「誰ひとり取り残さない」ことが
宇宙規模で実現可能になったというわけだ。
イラスト23:教会
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086653578003
全ての種族が尊重し合える普遍的な愛、
〝真なる愛〟の時代の到来だ。
もしもいるなら本当の神様だって、
きっと喜んでいるに違いない。
今日は地球暦の十二月二十五日。
彼女達が人類にもたらしてくれた
地球で最も有名な神話のひとつで、
救い主の誕生を祝う祝祭日である。
イラスト24;クリスマス
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093086653782710
真愛 平 一 @tairahajime
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