第2回
《《》》と、猫目先輩は堂々と言う。
「そういう問題ではないですよ」
と、私が言い返すと、
「では、どういう問題だ?」
「学校でお金のやりとりをするってのは、どうなんですか?」
「手間ひまかけてるんだ、ただにする方がおかしいだろ」
猫目先輩は、悪びれることなく言い、「それより、ちょうど二人揃ったんだ、説明してもらおうか」
と、二人を交互に見た。
「私が説明します」
と、愛さんが言い、「私たち最初の二人は、本当に同じ男を好きになって、本当に取り合ったんです」
「すると、三人目からは、片方が好きになった男に、もう片方が、ただ勝負をするためだけに、言い寄るのか?」
猫目先輩が、目を見開く。
「なんだか、愛に勝った人でないと、付き合う気になれないの」
と、泪が言えば、
「私も、泪よりも私の方がいい、と言ってくれる人でないと……」
と、愛が肯く。
私は、目が点になった。
「ーーお前たち、おもしろい!」
と猫目先輩は、大笑いしだした。
ちよっと笑い過ぎじゃない、と思いながら見ていると、猫目先輩は、
「ーーそうだ、1年生! お前は、正木のこと知ってたか?」
「知りません」
「正木太郎、 この大学の3年生だ。サークルは、マジック同好会ーーお前たち、マジックに興味があったのか?」
猫目先輩が、愛さんと泪さんの顔を見る。
「私が大好きなんです」
と、愛さんが手を挙げて言い、「それで、マジック同好会のイベントを見に行った時に、正木という人が、めちゃくちゃ格好いい人だったって、泪に話したら」
「それを聞いて、私は、どんな人か見に行ったの。マジックファンを装って、部室まで見学に」
と、泪さんが言った。
「そこで、お前が正木に一目惚れしたわけか」
と、猫目先輩は泪さんに言ってから、愛さんの顔を見て、「それを聞いたお前が、闘争心に火がついたわけか」
愛さんは、黙って肯いた。
「ーー私は、正木さんといろいろ話しているうちに、彼には彼女がいないことが分かったんです」
と、泪さんが頬を紅潮させる。
「私は、信じてなかったんですよ」
と、愛さんが言い、「あのルックスだし、密かにファンクラブまで出来てるくらいの人気者ですから」
「ファンクラブ! それは凄い」
私は、素直に感心した。
「それで私は、同好会の他の人たちに聞いてみました。本当に正木さんって、彼女いないんですかって」
愛さんは、首をかしげると、「同好会の人たちは、みんな口を揃えて、『いないと思うよ』って、それは」
「あの男の彼女を、誰も見たことがないからだな」
と、猫目先輩が言い、愛さんが肯く。
「結論から言って、あの男のことはあきらめたほうがいい」
と、猫目先輩が断言する。
「どうして、そうなるの?」
と、泪さんが口を尖らす。
「それはだな、私がどんなに詩的で感動的な言葉を並べようが、あの男には通用しない」
「どうして?」
愛さんが、面食らったように、「謙遜するなんて、猫目さんらしくないじゃない」
「これ謙遜などではない」
猫目先輩は、堂々と胸を張って、「お前たちの勝負、今回は、引き分けだ」
「勝手にきめないでよ!」
と、泪さんが目を三角にする。
「なぜなら、正木には、恋人がいるからな」
と、猫目先輩が衝撃的な発言をした。
「だから、正木さんには」
泪さんは、途中で目を見開き、猫目先輩の顔をまじまじと見つめた。
「ーーうそ!」
愛さんも、驚きを隠さず、猫目先輩を見つめた。
「ーーお前たち、完全に勘違いしてるな。あの男の恋人は、私じゃないぞ」
と、猫目先輩が言うと、二人揃ってホッとした表情をした。
それは、まるで息の合ったデュオのようで、私は思わず笑ってしまった。
「あの男の恋人は、私の兄貴だ!」
と、猫目先輩が言うと、今度は二人揃って、目が点になり黙りこくってしまった。
「ーー1年生! この二人どうしたんだ、固まってしまったぞ」
「峰です!」
私は、いつもより大きな声で言ってやり、「フラれたショックなんじやないですか」
「1年生!」
「峰です!」
「フラれるというのは、告白したり、付き合ったという前提条件が必要ではないのか?」
私は、グッと詰まってしまった。
いつか必ず名前をよばす!
と、私は心に誓った。
まだまだ戦いは、始まったばかりですからね……。
勝負の行方 北斗光太郎 @11hokuto
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