勝負の行方

北斗光太郎

章タイトル未設定

第1回

「彼の心を掴み取れる、グッとくるようなメールを送りたいの」

と言ったのは、三杉みすぎあいG大学2年生である。

「あんな男のどこがいいんだ?」

と、ぶっきらぼうに言ったのは、猫目ねこめひとみ同じくG大学の2年生、私が所属するミステリー研究会の先輩だ。

猫目先輩は、部員全7名中で、一番背が高くがっちりしている。

 ミステリーほどではないが、大のプロレス好きだそうだ。

 得意技はスリーパーホールド。

 噂では、その技で何人も失神させてきたようだ。

 三杉愛とは、高校からの同級生らしい。

「顔ーーかな、やっぱり」

「男は顔か?」

「私は、そうは思わないけど……」

「何だ、その奥歯にものが引っかかったような言い方はーーちゃんとはっきり言え!」

「分かったわ」

愛さんが苦笑し、「本当、猫目さんは変わらないわね」

「そうか?」

猫目先輩は、面白くもないという顔で、「私のことはどうでもいい、続きを話せ」

「じつは、彼ーー正木まさき太郎たろうのことを本当に好きなのは、泪の方なの」

「泪?」

猫目先輩は、少し考えてから、「ああ! あの金魚のフンの小杉こすぎるいのことか」

私は、思わず、

「猫目先輩!」

と、声をかけてしまい、「もう少し、言い方ってのを考えたほうが……」

私は、みね三世みつよG大学ミステリー研究会の1年生だ。

今いるのは、その部室である。

「いいの」

愛さんは、 笑みを浮かべて、「猫目さんの男まさりぶりには、慣れてるから」

「その『男まさり』という言葉は好かん!」

猫目先輩は、フンっと鼻を鳴らさんばかりに、「なぜ、いちいち男と比べる」

「何も、そこを突っ込まなくても」

私は、小声でつぶやく。

「こら1年生!」

猫目先輩は、ギロリと私をにらみ、「何か文句があるのか? あるならはっきり言え!」

「いえ、別にないですけどーー私は、峰です。いつになったら憶えてくれるんです」

と、私はため息をついた。

猫目先輩は、私のことを「1年生」としか呼ばないのだ。

「お前は、1年生じゃなかったか?」

「1年生ですよ」

「なら、問題なかろう」

と、あっさり猫目先輩に切られた私は、黙って口を尖らした。

「ーーあなたも、大変な人を先輩に持ってしまったわね……」

と、愛さんに同情されてしまう。

「そんなことより、どういうことだ」

猫目先輩は、愛さんに向かって、「金魚のフンが好きになった男なんかに、お前まで、なぜラブメールを送らなければならない」

「それは……」

それだけ言うと、愛さんはしばらく黙ってしまった。

「だからなんだ?」

猫目先輩は、焦れたように急かせる。

「ーー宿命なんです」

「ーー今なんて?」

猫目先輩は、目をしばたたきながら訊く。

「だから、宿命なの。ちょうど3勝3敗なのよ今」

愛さんは拳を固めると、「だからこの勝負は、絶対に負けられないの」

「なんの話だ?」

「恋の真剣勝負です」

「ーーすまん。私には、全く理解不能だ」

猫目先輩は、私の方を見ると、「1年生! よく分かるように説明しろ」

「峰です。そんなの私にだって分かりません。ただーー」

私は、愛さんの顔を見て、「今回、愛さんのお友達の泪さんって方が、正木太郎さんって方のことを好きになったことくらいのことしか」

「そこまでは、私にも分かる。そこから先のことだ!」

猫目先輩は、私を見て、ため息をついた。

あきらかに、使えない奴、って言ったようなもんだ。

「ーーごめんなさいね」

と、愛さんが私に頭を下げてくれると、「私がもっと分かるように説明するべきでした」

愛さんが、何か言い出そうとした瞬間、部室のドアがノックされた。

「はい、どうぞ!」

と、私が返事をすると、ドアを開け学生らしき女性が、誰かを探すようにキョロキョロする。

「おい! 金魚のフンだ」

と、猫目先輩が大声で言った。

細身でスラッとしたこの女性が、小杉泪さんらしい。

「ーーちよっと愛!」

泪さんは、愛さんに気がつき、「あんたここで、何してるの?」

「泪こそ、何しに来たの?」

泪さんは、小走りで愛さんの横に並ぶと、

「ーー私は、この猫目さんにバイトを頼みに来たのよ」

「お前もか」

猫目先輩は、肩をすくめただけだ。

「すみません!」

と、私が泪さんに声をかけると、

「私?」

と、泪さんが訊く。

愛さんから私のことを聞いた後、

「私に何か?」

と、泪さんが訊いてくれた。

「はい。ーー今言った、バイトって言うのは?」

「猫目さんは、高校の時、メールやラブレターの代筆をしていたのよ」

「お金を取ってですか?」

私は、目を丸めた。

「バイトだからね」

と、泪さんは言うと、愛さんに向かって、「あんた話さなかったの」

「それどころじゃなくてね」

と、愛さんは肯いた。

「心配するな1年生! 私たちの高校は、バイトは禁止ではない」

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