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第37話
「お母さん、本当に行かないの?」
「ごめんね。お父さんとふたりでおばあちゃん家に行って」
沙羅の言葉に納得のいかない美幸は、リビングの掃き出し窓の向こうにある駐車場で、車に荷物を積み込んでいる政志の方をチラリと見る。
「ねえ、お母さん。お父さんと仲直り出来なかったの?」
夫婦喧嘩の行く末を気にしていた美幸は、おそるおそる訊ねた。
美幸の心配をよそに、沙羅は穏やかに微笑む。
「心配かけてごめんね。お母さんがおばあちゃん家に行かないのは、お父さんとはちゃんと話し合って、特別に夏休みをもらったの」
「お母さんの夏休み?」
まだ、疑いを残した様子の美幸に言い聞かせるように、沙羅はゆっくりと口を開いた。
「そう、お盆休みに、おばあちゃん家に行ってもお手伝いがたくさんあって、ぜんぜん休めないじゃない」
「うん。お母さん、お手伝いいっぱい頼まれるもんね」
「少し疲れちゃったから、今回はお休みにしてもらったの。それに、いつも休みがないでしょう。たまには、ひとりきりで何にもやらずにダラダラ過ごして、美味しい物食べてリフレッシュするつもり」
ハッと目を見開いた美幸は、胸の前で手を合わせた。
「そうだね。お母さんだって、お休み欲しいよね。いつも忙しそうだったのに気が付かなくてごめんなさい」
素直に優しく育っている美幸の様子に、沙羅は目を細める。
不倫の制裁としては中途半端な選択だったのかもしれないが、美幸を悲しませずに済み、これで良かったと思えた。
「ひとりで過ごしたいなんて、お母さんの我が儘なんだから、美幸は謝らないで」
東京・金沢 恋慕情 〜サレ妻は、御曹司に愛されて〜 安里海 @35_sango
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