水を思い出して
体は既に、水を忘れていた。姿形や質感さえも、どこかに置いてきたらしい。
空が見えないのが、もどかしい。きっと、この場所の遥か向こうは水があって湿ってる。
「かなた」そこに行くことはきっと叶わない。口に出してみたは良いものの、あまりの支離滅裂さに頭が痛くなる。
僕のはなった言葉が反響したその数秒後、水が頬に垂れた。ほぼ有り得ないくらいの確率で、僕は水を得てしまった。
顔をまた、少しずらせば、水飲める。そう思うだけで顔から水が滴ってしまいそうになった。けれど、渇きのほうがよほど大きかったのか、自然と頭が動いた。
「これか」乾いた口の中から出てきた言葉。ひどく拙くどうしようもない位に枯れている。たしかに僕はこの瞬間に、水という感覚を思い出した。水、それはこの拙く枯れた一滴からなっているのだと、理解した。
水は、絶えず僕の口に落ち、僕を満たさず失わせずに存在させていた。さて、何もない僕は、これからどうするのか?他愛もない疑問が、僕の頭に浮かんだ。
断頭台のピアニスト 椋鳥 @0054
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