夢操

@yamatoyuki1001

夢操

私は小児科医だ。

一人の患者と朝と夜に話すことが日課である。

其の子は私の受け持っている患者の中で最も若く、見舞いに来る家族がいない。

「来て。淋しいから。」

と、云われ行くようにしている。

沢城 京 齢4歳 (性別:女)

幼いながらに口が達者な彼女はよく人を見ている。

「せんせい。寝て、ないの?」

図星だ。仕事が忙しく、寝る時間も惜しんで働いている。

私としてはお給料が貰えている為、自分がしんどいか否かは正直どうだって良い。

「せんせい。自分を大切にして。きょーみないんでしょ。自分に。」

全部当たっている。

昔から興味なんてない。

でも、患者にバレるわけにはいかない。

不安にさせる為に医者になったわけじゃない。


今日は寝るよ。と云うと彼女は自分の事のように笑ってくれた。

そして、突然云った。


「せんせい。どんな夢見たい?」

何の話だろうか、?

私は、本が読み度い。と云った。

最近読めていないが、私は読書が趣味である。

本当はもっと読みたいのだが時間がない。

せめて気分だけでも味わい度いと思ったんだ。

「せんせい。私、夢を操れるの。」


嘘をついている様には見えなかった。

でも、事実だとは思えなかった。

そんなはずが、「せんせい。何、見度い?」


仕方ない。話に乗るか、、

此の年齢なら、"ヒーロー"だとか"魔女"に憧れるのも年相応といったところだろうか。


私は、久しぶりに本を読み度い。と云った。


「ほん、、か。せんせい何の本すき?」


私は大の江戸川乱歩ファンだ。

中学生の時にハマって以来沼に浸かった儘だ。


沢城は笑って云った。

「おやすみ。せんせぃ。」

急に眠気がやってきて私は眠ってしまったようだ。




図書館、、?此処は図書館、ではない?


図書館のような場所だが誰もいない。でも、本は沢山ある。

医者になってからというもの、却々本を読む機会がなく、読み度いという願望だけが宙に浮いていた。


本棚の一冊を手に取ると其れは[エドガー・アラン・ポー]の作品だった。

江戸川乱歩の好きな作家らしいが、読んだことはない。

此の機に読んでみようか、、?

否、江戸川乱歩を先に読もう。


少し歩くと今度は太宰治の本棚だった。

昔は[女生徒]や[斜陽]、[人間失格]。沢山読んだものだ。


また少し歩くと、太宰治の本棚より大きい江戸川乱歩の本棚があった。


嗚呼、此れが私の読み度かった本だ。


大好きな作家、大好きな本。


私の人生の一番の倖せ。


それが私にとっての江戸川乱歩。


私は、読みふけっていた。




「ぇい、んせい、、先生!先生!いい加減起きてください!」


目が覚めると其処は休憩室(仮眠場所)だった。

看護師の怒った顔。嗚呼寝ていたのか。


すまん。今何時だ?


そう問うと、看護師は

「もうすぐ先生の仕事の時間です!!」

と、教えてくれた。


「職場で寝るなら帰って寝たほうがいいと思いますよ。」


ははは。

話を笑って受け流していると、私は重要なことを思い出した。


沢城 京


やはり、あれは凡て夢だったのか

そうだ。夢じゃないと私は彼女の前で寝たことになる。

此処で寝てるはずがない。


早速彼女の病室へ行くといつもの様に云った。


「せんせい。おはよ。」不敵な笑みで。




「昨日はよく寝れた?」

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