記録 ■■■■年■月■■日 

 めまいと吐き気を感じながら、私は地面にしゃがみ込む。


 やっぱり私の取り柄と言えど、記憶を覗く魔法は辛い。



 特に、死に際の記憶は。



 私は深呼吸をしながら自分の身体を認識する。

 五感の感覚が戻ってくるのを感じる。


 耳には風が木々を揺らす音が聞こえ、死の臭いが鼻を突く。


 そして、今見た記憶を忘れないように思い返す。


「なるほどね…これがこの村に起こった悲劇…か」


 私の口からそんな言葉が漏れた。



 ここに来るまでに見たもの。


 大きな岩に押しつぶされた木製の祠。


 何かに襲われ、荒らされた、死の臭いが充満していた燃えた村。



 そして今、私の目の前のあるもの。


 食い荒らされ、無残な姿と成った3つの子供の死体。



 そして私の魔法を使って覗いた、この小さな女の子の最後の記憶。



 恐らく記憶の中で大鳥様と呼ばれていた大きな鳥は「怪異 以津真天いつまで」だ。


 記憶の中の会話と状況から考えると、やはりに祀られていたのだろう。


 しかし、不幸にも少年が落としたに祠は押し潰された。



 そして、封印が解かれた。



 その祠から顕現した以津真天が暴れた結果が集落全滅これ



 魔法使いこの仕事で生きているから人の死にはそこそこ触れてきた。

 でも今回ほどキツいのは初めてだ。


 …いや、そんなことよりも大きな問題がある。


 あの少女の記憶で見た以津真天はかなり大きかった。

 現代に顕現した怪異であの大きさ、存在感は記録に無いかもしれない。



 そして、あの以津真天は恐らく祓われていない。



 これは私1人では無理だ。

 私は記憶を覗く魔法を使えるため、肩書きは魔法使いだ。


 しかし、それ以外は取り柄のない魔法使い。

 魔術師のランクではCランクだ。


 あの大きさなら秘匿守衛隊…AやSランク魔術師の応援が必要だ。


 まずは協会日本支部に連絡を入れないと。



 私は目の前にある3つの小さな遺体に手を合わせる。

 でも、今はまだ触れられない。

 埋葬することも火葬することもできない。


 だからせめて、これ以上荒らされないように認識阻害の結界を3つの小さな抜け殻を中心に構築する。


 申し訳の処理をした私は、ポケットに入れてあるスマホを取り出す。


 そして電話をするために、右上の電波状況を確認する。


「…やっぱり圏外か」


 思わず落胆の言葉が口から出てしまった。


「とりあえず…電波が入るところまで下りるしかないか」


 そう決意して、私は燃えた村に向けて獣道を歩き出した。

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記録 祠が破壊された村 Remi @remi12

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