神聖大アステール帝国の萌芽

 ◆


 この学園には剣術大会と魔術競典という二種類の催しものがある。


 ガイネス帝国では個の力が尊ばれる風潮にあるため、この二種の催しもので良い成績を残せば卒業後の進路に多少なり色がつく。


 ただ、俺は実の所そこまで興味はなかった。


 俺は別にこの国で出世をしたいわけではないのだ。


 名誉や栄光は追い求めて得るようなものではない……と俺は思う。


 そんなものは後から勝手についてくるものなのだ。


 だが俺は今年、この2大会の優勝を狙っている。


 理由は2つある。


 一つは母上に褒めてもらうため。


 もう一つは、母上の野望のため。


 母上がこのガイネス帝国を手中に入れんとしている事は分かった。


 しかしそれだけで終わるはずがない。


 母上は温厚なかただ──本当に本当に温厚な方だ。


 そんな方が帝国掌握などと考えるとしたら、どんな理由が挙げられるだろうか。


 それは一言で言えば恐らく──世界平和だろう。


 かつて世界は乱れに乱れていた。


 それは魔王軍という劣等集団が好き勝手に暴れていたからなのだが、魔王が滅んでからも各地で被害が出ている。


 つまり、今現在も世界は乱れている。


 現在では旧魔王軍と呼ばれている残党がいまだに跋扈しているのだ。


 更に言えば、問題は旧魔王軍だけに留まらない。


 魔王という共通の敵が居た頃はいざ知らず、現在では人間同士が相争っている。


 劣等閑居して不善を為すという言葉があるが、まさにその通りだ。


 野心過多、知性過少の劣等が世界を乱している! 


 母上はそれを心苦しく思っているのだろう。


 ゆえに、まずはガイネス帝国を──ひいては世界をその掌に掴み、あまねく秩序を敷かんとしているのだ。


 きっとそうに違いない! 


 ならば俺も趣味ではないが立身出世を目指すべきだ。


 そのために、まずは力を示す。


 ◆◆◆


 "本来の歴史" では、魔王ハインが滅びて暫くするとガイネス帝国も滅びた。


 理由はいくつかある。


 そ魔王の器となったハインがガイネス帝国の高位貴族だったことは大きい。


 だがこれは魔王ハインを討った勇者アゼルもまたガイネス帝国の貴族であったことを考えれば、功罪相殺とも言えた。


 最悪だったのは、世界を救った勇者アゼルを抹殺したことだ。


 さらに魔王ハインとの戦いで名を馳せた英雄たち──セレナ、エスメラルダ、ガルデムらの殺害にも関与していた。


 この裏切りは世界の怒りに火を点けた。


 かつての敵国同士が、復讐という共通の旗印の下に集結していった。


 形成された合従軍はガイネス帝国に津波の様に押し寄せ、領土を次々と削っていく。


 まあ十二公家の奮戦もあり、帝国は七年もの間持ちこたえたが──それでも世界の敵となったガイネス帝国が生き残る術はなかった。


 だが、世界にとってはこれで世界平和が成ったとはならない。


 かつてのガイネス帝国の様に、暴虐に狂う国が次々と現れたのだ。


 賢王と呼ばれた者が突如狂し、周辺諸国を取り込んで覇権を握ろうとしたり、特定の民族を根絶やしにしようとしたり。


 その度に世界は乱れ、そして最後は。


 ともあれ、それは "本来の歴史" での話である。


 この世界線のガイネス帝国は、少々異なった結末を迎える──かもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 06:00 予定は変更される可能性があります

悪役令息はママが好き 埴輪庭(はにわば) @takinogawa03

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画