老婆のおひとりさま回転寿司

小柴茉莉華

老いとは誰もが平等に迎えるもの

これは、普通の家庭で愛情をかけられて大切に育てられた方には理解ができないであろう残酷な現実のお話しです

アダルトチルドレンである私の葛藤と苦悩です

今、まさに断ち切る思いと覚悟を決めて文章にします



うちの母は、70歳を過ぎたが

いまだに自分は若くてイケていると思っている

自動車の運転もまだしているがうまいと思っている

勘違いというものは怖いと思った


私はというと『痛い女』と思われるのが怖くて

ある程度の老いは認めている

15年くらい前かと思う、漠然とだが同僚の男性から

『今後、どうなりたいの?』と聞かれた

深く考えたことはなかったが、その時浮かんだのが

『萬田久子さんみたいな素敵な大人のかっこいい女性になる!』と答えた

『へぇー!まりさんなら、なれるんじゃない?』

え~?社交辞令的な・・・



先々月、うちの母が車の事故を起こした

幸い相手もなくケガもなく車が破損しただけで済んだ

これで何度目だろう?

本来ならば、購入したディーラーの担当営業に電話すべきだと思うが

いつも一番最初に私に電話をしてくる

そう、私は自動車ディーラーに20年以上勤務していたのでたいていのことは対応できてしまう

そういったことが母を甘やかせてしまったのだろう

こちらが、仕事中だろうが構わず個人携帯に電話をしてくる

私としては、何か重大なことがあった?と思うので電話に出る

ひどい時には、『スーパーでエンジンがかからなくて帰れないからすぐ来て!』と

さすがに、『今、仕事中だからムリだよ。1時間以上かかるし。悪いけど、親父に迎えに来てもらうか、ディーラーに電話して』と切る

夜、電話がかかってきて『しょうがないから歩いて帰ったわよ』と怒っていた


母には、3回やられている

『エンジンがかからなくてでかけられないんだけど』と

1回目 シフトレバーがパーキングに入っていなかった

2日目 フットブレーキを踏まずエンジンボタンを押し続けていた

3回目 エンジン始動後スマートキーを持たずに出かけ帰りにエンジンがかからない

すごく基本的なことだ

正直、この時に免許の返納を促すべきであったと思う

こんな老人が運転していると思うと怖くて仕方がない

ただ、この時は本当に車の不具合だった

オオカミ少年とでもいえばいいのだろうか?信用するのにムリがあった


老後は静かなところで暮らしたいとのことで田舎に引っ越したため

買い物、銀行、病院など車がないと生活は不便であるのは確か

だからと言って私も仕事をしていて生活もあるので毎日のお世話などできない


会社でも問題になっていた

勝手に車の契約をした高齢者の息子さんが菓子折りを持ってきて契約をなかったことにしてほしい、と

気持ちはすごくわかる

私は経理をしていたので、返金等の処理をしなくてはならないのでめんどくさかった

なので、嫌みではないがお客様をみて高齢者の時は営業に確認した

『大丈夫なの~?契約破棄とかやめてね~』


そんなやり取りがあったことを思い出したが

実家のために自分の大切な時間を奪われたくなかったので、返納させていなかった



そして、先月に車両保険が認められて新しい車が納車された

前の車は覚えやすいようにと自分の誕生日を希望ナンバーにしていた

今回は保険の予算内ということで希望ナンバーにせず普通に車両登録した

別に悪い数字ではなかったが、気に入らなかったらしく

ディーラーに依頼すると高いので、私が希望ナンバーに変更することに・・・

それくらいおてのものである

でも、腑に落ちない


希望ナンバーの交付日がわかり母に伝えた

そして、交付日が過ぎて一緒に陸運局へ変更に行くことになった

『午前の部に入りたいから9時30分ごろ家に来て』

『えー?お母さんが行かなくちゃいけないのー?』

『当たり前でしょう!自分の車なんだから、ディーラーで渋ったでしょう』

イラっとした


そして、その日がやってきた

が!

な、な、な、なんと!

車庫入れで壁にぶつけてリアバンパーがガリガリに

『あー!なんでこの家はバック駐車じゃないとダメなのよ!もう二度と来ない!!』と母が激怒

『え?リアカメラ付いてるよね?モニター見て確認してなかったの?』

『そんなの付いてない!』

『いやいや、付いてるし。前の車にも付いていたよ』

『知らなーい』

『・・・・・・・』

とりあえず、怖すぎるので私の運転で陸運局へ


道中、『ちゃちゃっとすぐ終わるよねー?』

『ナンバー外したり書類書いたりするから、そんなすぐには終わらないよ』

『まだ着かないの?トイレ行きたい!お腹が空いた』と隣で言いたい放題

だったら、お金払ってやってもらえばよかったのに

そして引き受けた自分に後悔した


陸運局につき、書類を書き、ナンバーを外して受付をしてとあちこちに動き回る私の後を付いてきて初めて娘の仕事を知ったのであろう

混んでいたのもあるが、小一時間くらいかかった

『こんなに大変なの~?』

『そうだよ』

無事、自分の誕生日のナンバーに変わり満足したのか陸運局から帰る

時計は12時をまわっていた


『お腹が空いた~!うちのお昼は11時だから』と

確かに親父が年なのか実家のお昼は早かった

すぐに食べたいと訴えてきた


うちの母はお寿司が好きだ

回転寿司で満足する人だ


ちょうど近くに回転寿司があったので入った

初めて入るチェーン店だった

タッチパネルで席を取り、タブレットで頼むという便利なシステム

へぇ~、すごい!と驚いた

普段、外食をしない私は母とたまに訪れるくらいだが使い方くらいはわかる

しかし、これが大きな落とし穴だと思った

高齢者には難易度が高いのでは?

母がLINEをしたいと言い出しスマホに買い替えさせた

だが、使い方を30回以上教えたがいまだに使えない

覚えられないのか?覚える気がないのか?

もうあきらめた

だから、回転寿司の操作はすべて私

いつものようにタブレットで頼む

ここはレーンに注文品と書かれたお皿にお寿司のが乗って近づいてくるとタブレットに通知がきて取るようなシステムだった


数皿頼み食べていると後ろの席から女性の怒号が!


『お前さー、3時間も居てなに頼んでなに食ったのか覚えてねーのかよ!』

『だからボケるんだよー!』

店内が静まりかえった


後ろをチラリと振り返ってみた

お化粧をきちんとした白髪のおばあさんとその娘さんかお嫁さんかな?

という感じに見えた

店員さんに『キャンセルして』とさらにヒートアップしてその女性はおばあさんに罵倒を浴びせ続けた

おばあさんは『わからない』というだけ

おそらく、ひとりで来店して頼んだものと違う他の人の注文品などを食べて3時間もいたので不審に思ったお店側がご家族に連絡したのではないかと推測できる

私はただただ驚いて怖くて固まってしまった

面前でそんなひどい言葉を吐くものなの?

そんな言い方しなくても、など気の毒に思えた


次の瞬間だった

母が頼んでいないお寿司のお皿を取った!

『ちょ、ちょっと、それ頼んでないよ』

母が戻した

え?この状況で・・・

後ろの会話聞こえてなかったの?

恐ろしくなった


これって、近い未来の母と私の姿?

他人ごとではないよね?


私も同じように罵倒するのであろうか?


怖い・・・



その時、正直に思った私の気持ち

あのひどく怒っていた女性はきっと大切にされていなかったのではないか?

もしも、大切にされいた娘さん、もしくはお嫁さんだったら

『おかあさん、マグロが好きだったよね?食べた?』と優しく聞くのではないかと


考えさせられた

私だったらどういう対応を取るのだろうか?


騒ぎが終わると同時にお店を後にした


そして、帰りの道で私の運転する車の前に高齢のおばあさんが乗るスクーターが道路の真ん中をフラフラゆっくり走っていた


追い越しざまにあろうことか

『あぶねーな、ばーさん』と母が開いている窓から言うではないか!

びっくりした

『お母さんの運転の方がよっぽど怖いよ』すかさず私は言った

『そんなことないよ』

驚きしかなかった

朝、うちの壁でリアバンパーこすりましたよね?忘れた?

他人のことをよく言えるな~


昔、『暴走老人』というのが流行ったと思うがまさにそれそのもの

ショックでもあった

自分の親が・・・


この人は昔から自分が一番であると思う節があった

今の今でも私へのマウントがすごい

娘に嫉妬するなんてバカなんじゃないかと思っていた

私はジムに通いそれなりに鍛えている

この日も母から『食べるのやめて5kg痩せたのよ、きれいになったでしょ』と

一回り小さくなってシワシワの顔で自分の方が細いアピールをされた


心が醜い


老いを認められないかわいそうなおばあさんになってしまっていた


もう私がしてあげられることはないな、と思った

いや、もうこんな自分勝手な母に振り回される人生は終わりにしよう


回転寿司で老婆を罵倒するような醜い女になりたくない

お気持ちはよくわかる、きっと何度も迷惑をかけているのだろう


だから私は実家とは距離を置こう


私ももういい大人になった

言うことを聞くいい子の仮面を外してもいいだろう


素直に老いを認めて醜いおばさんにならないように

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

老婆のおひとりさま回転寿司 小柴茉莉華 @koshiba_marika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ