第6話ー来訪者と潜在能力
僕の質問に対して、赤髪の美女はハキハキと答える。
「それは今朝、メルシー様より直接『これから世界を救う使徒を送ります。説得頑張りますわ』と、御神託を賜ったからです」
「そ、そうなのですか……ご教授ありがとうございます」
そう言えば女神様は、自分で直接世界に干渉出来ないと言っていた。
だが、御神託のように間接的であるならば、世界に干渉出来るのだろうか?
何とも難儀なことである、が解せない。
何故女神様は、その御神託とやらを使って、自分でこの世界を平和にしないのだろうか?
少なからず意思疎通は出来ているし、この人達からは悪しきオーラを感じない。
ならばどうして、わざわざ説得をしてまで他の世界の人間である「僕」を、ココに転移させたのだろうか?
何か起こる度に思考し、思考する度に新たな疑問が次々と浮かんでくる。
これでは埒が明かない。
「もう少し、質問宜しいですか?」
「「御意のままに」」
畏まられ過ぎて、むず痒い。
もっと楽に欲しい。
しかし、使徒というのは女神様から与えられし、大変名誉な肩書きである。
僕がどう思うかではなく、女神様がどう思うのか、が大事なのだろう。
自分の使徒として送った人が蔑ろにされたら、それは女神様に対する無礼にもなるのだ。
だからこそ、僕からは下手なことが言えない。
「ありがとうございます。何故女神メルシー様は、自分で世界を平和に導かないのですか?御神託を賜ったとおっしゃっていましたが、御神託で自ら間接的に導くことも可能ではないでしょうか?」
「はい、それは可能です」
僕の質問に対して、青髪の美男子が答えてくれた。
しかし、可能ではあるらしい。
そこには計り知れない理由がありそうで、思わず身震いをしてしまいそうだ。
「では、何故?」
「それは慈悲の女神メルシー様の妹君、平和の女神ピース様が根底にあります。もともとこの世界は、メルシー様とピース様の恩恵で平和だったのです。しかしある日、神の意志とは無関係に、異世界から来訪者がやって来ました。それが悲劇の始まりです」
女神の意志とは無関係の、異世界からの来訪者。
なんだか、嫌な予感がヒシヒシとして来た。
冷や汗をかいて身震いしている僕を他所に、青髪の美男子は言葉を紡いでいく。
「これはメルシー様がおっしゃっていたことですが、異世界からの来訪者は、今までと違う環境に適応する為に、その潜在能力を解放するのだとか」
「潜在能力の、解放?」
「はい。人間は力を抑えて生きており、いざという時に、その力が解放されるのだとか。その能力は凄まじく、超常的な能力に目覚める人も居るのだと、メルシー様は言っていました」
異世界からの来訪者は、異世界という今までと異なった環境に適応する為に、その潜在能力を解放するらしい。
僕の場合は恐らくだが、音を響かせる能力だろう。
そうでもなければ、広い戦場全体に音が響く訳がない。
そしてそれは、神の意志とは無関係な異世界からの来訪者とやらにも、当然だが当て嵌る。
「もしかして、それって……神の意志とは無関係な異世界からの来訪者にも、当て嵌りますよね?」
『…………………………』
僕の言葉を聞いた二人は……いや、後ろの兵士も合わせた六人が、顔を曇らせていた。
その空気は重く、そんな六人からは怒りと憎しみの音が聞こえてくるのだ。
それが、どうしようもなく苦しい。
胸が締め付けられるようだ。
僕が弓を持っている右手で胸を抑え込むと、落ち着きを取り戻した青髪の美男子が、覚束無い言葉を紡いでゆく。
「ふぅ……はぁ…………はい、その通りです。そやつの名前はレブル、能力は…………『洗脳』です」
と、目から光を失いながら。
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音のマジシャン~魔法の音楽で傷ついた異世界に癒しを~ 初心なグミ @TasogaretaGumi
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